2016うま味国際シンポジウム開催報告

2016年10月

  • 1.日 時
    平成28年6月5日(日) 10時30分~14時50分
    2.会 場
    横浜ベイホテル東急  (横浜市西区みなとみらい2-3-7)
    3.主 催
    特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター
    4.後 援
    農林水産省、日本味と匂学会、特定非営利活動法人日本栄養改善学会、公益社団法人日本栄養・食糧学会、一般社団法人日本家政学会、公益社団法人神奈川県栄養士会、一般社団法人日本調理科学会、特定非営利活動法人日本料理アカデミー
    5.参加者
    味覚研究者、栄養士、シェフ、ジャーナリスト他 計104名
    6.報告者
    うま味インフォメーションセンター事務局
    7.概 況
    生まれて初めて出会う味であるうま味が、食べ物のおいしさに関与しているだけではなく、その健康価値について、研究者やシェフの方々の座談会を通じて発信しました。開会にあたり、うま味インフォメーションセンター理事長である山本隆先生から、これまでのシンポジウムではうま味が基本味であることや世界共通の味覚であることを伝えてきたが、今回は私たちの健康な食生活に、うま味がどのように関わっているのかについても議論を深めたいとの挨拶がありました。

    ≪第一部≫ 研究者による座談会 「うま味の健康価値を科学する」

    • ◇ギャリー・ビーチャム モネル化学感覚研究所最高名誉理事
    • ◇ジュリー・メネラ モネル化学感覚研究所
    • ◇ガブリエラ・モリーニ イタリア食科学大学准教授
    • ◇山本隆 UIC理事長、大阪大学名誉教授、畿央大学教授

    開会挨拶を行う山本理事長

    ビーチャム先生
    生まれたばかりの乳児でもうま味に対する嗜好性がありますが、うま味のみ(グルタミン酸ナトリウムの水溶液)に対してではなく、スープなどに添加されたときに嗜好性が示されます。人は少なくともある程度の先天的なうま味に対する嗜好性があるように思います。
    メネラ先生
     胎児は羊水、乳児は母乳を通じて母親の食べたものの風味を学習・体験しています。母乳にはグルタミン酸が豊富に含まれています。母乳によるうま味と風味の体験は子どもの味覚の発達にとって非常に重要です。
    山本先生
     幼い時の味覚体験が成長後の味覚形成に影響することは動物実験でも示されています。初期体験が大事です。うま味の受容体は舌だけではなく、胃や腸にもあり、うま味受容体から脳に送られたシグナルによって、食べ物の消化・吸収を円滑にし、食後の満足感にも関与している可能性があることが最近の研究で示されています。「おいしかった」「また食べたい」という感覚を覚えることは乳児でも大人でも大事なことです。
    モリーニ先生
     イタリアでは離乳食にパルメザンチーズを使います。イタリア人はうま味を乳幼児のころから体験していますが、「うま味」という言葉を知りません。ですから、私は学生にうま味を教えています。味覚は食の言語であると考えています。味覚がわかれば、食物とのコミュニケーションが可能になり、料理の構成を理解することができるようになります。将来、食関係の仕事に就く学生たちには、分子レベルで味覚を理解して欲しいと思っています。

    熱心に聴講されている参加者の皆さん

    ビーチャム先生による総括
     米国では1940年代に米軍の食事をおいしくするために使われていたグルタミン酸ナトリウムに関するシンポジウムがありました。食品会社の技術者や研究者が集まり、うま味物質であるグルタミン酸ナトリウムについて詳細な検討が行われています。うま味研究には長い歴史があります。そして、2000年のうま味受容体の発見は、人類にとってのうま味の重要性を科学的に強く裏付ける手助けとなりました。この重要性を、私たち研究者より生活者に近いところにいるシェフたちによって、さらに広く発信されていくことを期待します。

    ≪第二部≫ シェフによる座談会 「うま味と料理のサイエンス-シェフたちの挑戦!」

    • ◇アリ・ブーザリ シェフ、博士(生化学)
    • ◇オーレ・モーリットセン 南デンマーク大学教授、Nordic Food Lab.顧問
    • ◇カイル・コノートン シェフ、調理学研究者
    • ◇脇屋友詞 Wakiya一笑美茶樓 オーナーシェフ
    • ◇高橋拓児 京料理木乃婦 若主人

    パネルディスカッションを行っている登壇者の方々

    ブーザリ氏
     うま味は日本だけのものではなく、世界のどこの国の料理にも存在しているものです。シェフたちはレシピを理解するのではなく、食べ物の成分についての知識を身に着け、調理や発酵などのプロセスで成分がどう変化するかを知るべきです。例えば、大豆のタンパク質の中に閉じ込められていたグルタミン酸は発酵によってうま味に変わります。このことが理解できれば、大豆以外の素材から新しい発酵食品を創りだすことができます。
    コノートン氏
     日本料理に魅せられてうま味に出会いました。でもうま味は日本料理だけではなく、タイの魚醤や英国のウスターソースなどいろいろなところにあります。欧米のシェフたちはうま味を知ったばかりのころは、うま味を料理の主役にしようとしますが、うま味とは料理のどこかに潜んでいるもので、主役ではありません。どこに、どのように潜んでいるのかを日本料理に学ぶべきだと思っています。
    脇屋氏
     中国料理のうま味と言えば、なんといってもスープです。肉や野菜だけではなく、干し椎茸、干し貝柱、干しエビ、金華ハムなど、いずれもうま味がたっぷり凝縮されている乾物類を素材として使っています。そして時間をかけて丁寧に素材のうま味を抽出したのが中国のスープです。
    高橋氏
     私たちは乳児のころに母乳を通じて液体のうま味を体験し、成長するに従って、固体からうま味と栄養素を取るようになります。うま味そのものは乳児期から体験している味で、母乳や'だし'、各地固有の料理に共通していますが香りが違います。つまり、きっかけはうま味で、嗜好性の結論を出す手がかりが香りではないかと考えています。
    モーリットセン先生
     北欧の伝統的な料理の殆どにうま味がありますが、うま味という言葉を知りません。そのような味覚があることに気付いていない人が多いので、幼稚園や小学校の子どもたちに、シェフや科学者がうま味を教える機会を持つべきだと思います。幼い子どもたちにうま味を教えることによって、将来、素晴らしいシェフやうま味レシピが誕生することを期待しています。

    三名のシェフによるうま味メニュー

    試食いただいたうま味メニュー

    高橋氏 「香気(高貴)な茶碗蒸し」
    シンプルな茶碗蒸しに、上質なだしとヒノキやドライフルーツなど約20種の香気成分を抽出した日本酒で仕立てたジュレを合わせたメニュー。だしのうま味に香りが加わることで、奥行きが与えられ、高貴な風味に仕上がっています。
    コノートン氏「塩麹でマリネしたサーモンの土鍋燻製 ごまとねぎのソース添え」
    液体塩麹でマリネし、うま味を引き出したさけを、桜チップでスモークしたメニュー。スモークフレーバーやごまとねぎのソースがアクセントとなり、さけのうま味を引き立てています。
    脇屋氏「アスパラガスとあさりのリゾット(蛤仔露筍粥)」
    代表的なうま味食材アスパラガスとあさりをふんだんに使い、チキンスープで炊き上げたリゾット。うま味の相乗作用による深い味わいと、アスパラガスの鮮やかなグリーンが印象的な一品です。
    ◆うま味メニューレシピ(PDF)のダウンロード

    2016うま味国際シンポジウムはうま味を科学と調理という両側面から掘り下げ、おいしさとうま味の関係だけではなく、健康にも関与していることを参加者の皆さんと共有する機会になりました。参加者の方々からは、今まで知っていたうま味の知識をより深めることができた、うま味には健康というキーワードがあり、その研究が既に始まっていることに驚いた、何となく曖昧な感覚として捉えていたうま味が明確になった等、多くの感想をいただきました。

    当シンポジウムにご参加いただきました皆さま、並びにパネルディスカッションに参加いただいた科学者やシェフの皆さま、運営面等でサポートいただきました方々に改めて御礼申し上げます。今後とも、うま味インフォメーションセンターへのご支援のほど、なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。