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アメリカ サンフランスシスコ
New Frontiers of Taste うま味シンポジウム

2008年7月

2008年7月21日、アメリカ・サンフランシスコのハイアット・リージェンシー・サンフランシスコで、“うま味”発見100年の記念事業として「Umami Symposium ―New Frontiers of Taste」(うま味シンポジウム―味の開拓者たち) が開催された。このシンポジウムは、過去にイギリスのチェルトナムで行われた同様の催し物を内容・規模ともに充実、拡大したもので、「うま味インフォーメーションセンター」としては最大の“うま味”行事となった。当日、会場には、シェフ、料理学校生、レストランオーナーやマネージャー、ジャーナリスト、料理研究家、食品企業・流通関係者、また“うま味”について興味のある一般市民など、約250人もの人々が参加した。

シンポジウムは、パネルディスカッションと“うま味”が体験できる昼食会という二部構成だったが、その前に参加者の交流を目的にしたレセプションが開かれた。レセプション会場では“うま味”情報や、うま味インフォーメーションセンターの活動に関するパネルの展示、池田菊苗博士の“うま味”発見に関するドキュメンタリードラマ『AMBITION』が放映され、シンポジウムが始まる前から参加者の間に“うま味”についての関心を盛り上げた。

壇上のパネリスト
壇上のパネリスト

司会:キャシー・サイクス博士
司会:キャシー・サイクス博士



パネルディスカッションには、イギリス、アメリカ、オーストラリア、日本から、著名な「食」専門の科学者、ジャーナリスト、そしてシェフが参加。キャシー・サイクス博士の名司会のもと、各パネリストから“うま味”に関するそれぞれの分野で情報や意見交換がなされ、和やかな雰囲気の中にも真剣で活発な議論が行われた。


パネリストの1人、米国モネル化学感覚研究所所長、ビーチャム博士は、西洋人にとって“うま味”は理解しづらい味であるという見解に対し「母乳には“うま味”がたくさん含まれているので、誰もが幼い頃から慣れ親しんでいる味覚である」と語り、オーストラリア、ニューキャッスル大学準教授、ジョン・プレスコット博士からも「たとえ人種が違っても、様々な形でみな”うま味“に親しんでいる」との発言が出た。また、マスター・オブ・ワインの称号をもつティム・ハナイ氏は、「18年前に“うま味”の存在を知ったことで基本の4つの味覚しか知らなかった時点で説明のつかなかったワインの味がようやく理解できた」と述べた。一方、だしをよく知る日本料理のシェフ、徳岡邦夫氏は、「5年ほど前から“うま味”を意識しはじめた。“うま味”を知ることで、だしと食材の新たな組み合わせにチャレンジできる、日本料理でもっとも大切なことは、だしと素材との組み合わせ」と語り、フードライターのハロルド・マクギー博士も「“うま味”を持つ素材の組み合わせで相乗効果を引き出すことが大事」と述べた。こうした各パネリストに対し会場からも積極的に質問が寄せられ、アメリカにおける“うま味”に対する関心の高さがうかがわれた。さらに、参加者に“うま味”を実感してもらう試みとして熟成度の異なる2種類のチーズが提供され、こちらも参加者の興味を誘った。

ビーチャム博士
ビーチャム博士

徳岡氏
徳岡氏

マクギー博士(左)プレスコット博士(右)
マクギー博士(左)   プレスコット博士(右)


シンポジウム最大の山場は、パネルディスカッション後の大昼食会。まず、ティム・ハナイ氏が、料理に合わせて出されたワインと“うま味”との関係、ワインが“うま味”をどのように引き出すかを解説し、参加者の興味を誘った。料理は日米を代表する3名のシェフ、徳岡邦夫氏、ヒロ・ソネ氏、トーマス・ケラー氏が、それぞれ“うま味”をふんだんに取り入れて手腕を競ったものだっただけに、多彩な食材を生かした5品の前菜を含む4コースは、味もプレゼンテーションも最高の出来ばえだった。会場では、料理が出される毎に、各シェフが調理した自らの“うま味”料理について実体験に基づいた懇切丁寧な説明をし、参加者は素晴らしい料理に舌鼓を打ちながら、存分に“うま味”体験を味わった。

質問に答えるハナイ氏
質問に答えるハナイ氏




昼食会

前菜を担当したのは、京都吉兆嵐山本店総料理長の徳岡邦夫氏。大根を茶道具の雪洞に見立て、その灯りに5品の前菜が浮かび上がるというプレゼンテーションを披露、明暗のコントラストの中で自分自身を見つめ、他の存在を尊ぶ大切さについて語った。五品のうちの一品目は、昆布だしで茹で玉ねぎの食感を残したまま苦みを消しうま味を生かした「玉ねぎ昆布だしさっと煮、鶏ゼリー、昆布うま煮、大葉と胡麻のせ」。山椒風味の昆布の佃煮と梅肉、しそのトッピングが、さらにうま味を引き出している。 続く、「伊勢海老焼霜土佐酢ゼリーがけ 揚げ米添え」は、オマールをさっと焼いたものにだしと醤油と米酢をあわせたジュレをかけ、針生姜と揚げ米をのせた1品。鶏肉の燻製を漬け込んだホイップクリームと温泉卵の黄身にさらにパルメザンチースと木の芽を添えたのは「温泉黄身卵の鶏燻製風味ホイップクリーム添え、木の芽とパルメザンチーズあしらい」。また、「牛肉の昆布だししゃぶしゃぶ 万願寺唐辛子ソース添え」では、薄切り牛肉を63度の昆布だしにくぐらせ、肉の中のイノシン酸と昆布のグルタミン酸の相乗効果で“うま味”を引き出した。万願寺唐辛子のペーストとだしを合わせたソースでいただく。最後の5品目は、マッシュした揚げじゃがに昆布の粉をかけた「揚げじゃが芋の柴漬けのせ」。だしの取り方について徳岡氏は、それぞれの店や家庭によって、また、水や昆布、鰹節によって、さらには、料理や食材に合わせても変わってくるので、これが正しいという方法はなく、経験からよいものを見つけるべきと語った。また、いちばん大事なことは、“うま味”をどんな食材と組み合わせるのか、どうやって食べるのかであり、複数のものが絡まりあった時にこそ奥行きのある深い味“こく”が生まれる。これを機会にみなさんにも“食”の大切さについて考えてほしいと語った。

雪洞について語る徳岡氏
雪洞について語る徳岡氏

前菜 右から玉ねぎ昆布霜、伊勢海老焼霜、温泉黄身卵、牛肉の昆布だししゃぶしゃぶ、揚げじゃが芋の柴漬けのせ
前菜    右から玉ねぎの昆布だしさっと煮、鶏ゼリー、昆布のうま煮、大葉と胡麻のせ、伊勢海老焼霜、温泉黄身卵、牛肉の昆布だししゃぶしゃぶ、揚げじゃが芋の柴漬けのせ

前菜が配られた会場の様子
前菜が配られた会場の様子



サラダを担当したのは、レストラン「テラ」「アメ」のオーナーシェフ、ヒロ・ソネ氏。タイの魚醤とトマトの両方の“うま味”を活かした「生姜風味の茹でエビとスイカのサラダ 魚醤入りレモングラス風味のドレッシング和え」を披露した。ソネ氏は、自身のレストランで、ベトナム、タイ、イタリア産の3つの異なるフィッシュソースを使っている。日本人だから、“うま味”と一緒に育ってきた、いつでも“うま味”があるのが自然、というソネ氏が、料理の複雑な味を出すときのベースと考えているのが“うま味”であると語った。また、サラダのドレッシングにお茶を使うことがあるかという問いに対しては、お茶も“うま味”が強い素材として知られている、ドレッシングを作るときに抹茶を使うことがあると答えた。

魚醤のうま味について語るソネ氏 生姜風味の茹で海老とスイカのサラダ、魚醤入りレモングラス風味のドレッシング和え
魚醤のうま味について語るソネ氏 生姜風味の茹で海老とスイカのサラダ、魚醤入りレモングラス風味のドレッシング和え

アントレを担当したのは、レストラン「ザ・フレンチランドリー」「パーセ」「ブション」のオーナーシェフ、トーマス・ケラー氏。野菜の“うま味”を濃縮したラタトゥユ、21日間熟成させたラム、ラムのソースとどれをとっても“うま味”のある素材を使った「エリジァンフィールドファームのラムロース肉の真空調理 ラタトゥユ添え ローストフェンネルと酢漬け小玉葱のソース」を披露した。真空調理とは、食材を生のまま、場合によっては調味料と一緒に真空包装し、湯せんなどの低温で一定時間加熱してサーブする調理法のことである。ケラー氏は、フランス料理とカリフォルニア料理の良さを生かした独自のスタイルを提供するシェフとして注目を集めているが、伝統的なフランス料理と“うま味”について聞かれると、例えば、ラタトゥユは何百年も前からあった料理。フレンチのベースにはすでに“うま味”が備わっていると述べ、さらに、“うま味”を意識することと同時に、フレーバープロファイル(全体の味のバランス)が大事。味覚に関する知識を持つことは重要なことで、特に次世代のシェフは、伝統を保つだけではなく、味覚や食品の知識を持って新しいテクニックを見つけていかなくてはならないと語った。

こうして5時間にも及んだシンポジウムは、参加者の間に“うま味”に対するさらなる関心を呼び、“うま味”料理への高い評価も手伝って、会場に熱気を残して無事終了。うま味インフォーメーションセンターにとってこの記念碑的な行事は、これからのアメリカにおける“うま味”の啓発の拡充に向けた重要なスプリングボードとなるであろう。

素材のうま味について語るトーマスケラー氏
素材のうま味について語るトーマスケラー氏

ラムロース肉のラタトゥイユ添え、フェンネルと酢漬け子玉葱のソース
ラムロース肉のラタトゥイユ添え、フェンネルと酢漬け子玉葱のソース


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