うま味の活用

うま味の活用

うま味の相乗効果

昔から利用されてきた相乗効果

 代表的なうま味物質はアミノ酸系のグルタミン酸と核酸系のイノシン酸やグアニル酸ですが、これらはそれぞれ単独よりも、グルタミン酸と核酸系のうま味物質を組み合わせることで、うま味が飛躍的に強く感じられることが科学的に証明されています。これを「うま味の相乗効果」といいます。

 しかし、このことが証明されるはるか昔より、うま味の相乗効果は利用されてきました。グルタミン酸を多く含む野菜とイノシン酸を多く含む肉や魚を組み合わせたスープストックや中国料理の湯(タン)、グルタミン酸の多い昆布とイノシン酸の多いかつお節からとった合わせだしなど、昔から世界の各地域でさまざまな料理に活用されています。これはうま味の相乗効果を経験的に知り、料理に応用してきた結果といえるでしょう。

 グルタミン酸とイノシン酸の相乗効果によるうま味の強さは、配合比によって変化します。全体のうま味物質の濃度が一定になるようにし、グルタミン酸とイノシン酸の配合比を少しずつ変化させた水溶液を用いて官能評価を実施したところ、グルタミン酸とイノシン酸がちょうど1:1のときにもっともうま味が強くなることがわかりました。これは単独で味わうときに比べ、およそ7〜8倍とされています。

 ある老舗料亭の一番だしを分析してみたところ、グルタミン酸とイノシン酸の配合比はちょうど1:1でした。長年だしの味を追求しつづけるなか、もっともうま味が強くなる配合にたどり着いたのでしょう。

うま味の相乗効果

うま味の相乗効果

グルタミン酸・イノシン酸の配合比とうま味の強さ

グルタミン酸・イノシン酸の配合比とうま味の強さ

※トータルのうま味物質の濃度が一定(0.05g/100㎖)になるよう、グルタミン酸とイノシン酸の割合を調整した。

世界の「だし」

 日本のだし、フランスのブイヨン、中国の湯(タン)......、素材や使い方は違いますが料理には欠かせないものです。その成分を分析すると、いずれもうま味物質であるグルタミン酸やイノシン酸が多く含まれ、強いうま味が感じられます。西洋でも、東洋でも、うま味は上手に使われています。

 日本のだしは、グルタミン酸と弱いうま味をもつアスパラギン酸、そしてイノシン酸からなるシンプルな構成になっています。一方、ブイヨンや湯(タン)には、各種のアミノ酸が含まれていて、より複雑な味をもっています。

だしの成分比較

昆布だし

一番だし※

チキンブイヨン

上湯(シャンタン)

※ 一番だしには、かつお節由来のヒスチジンという弱い酸味をもつアミノ酸が多くふくまれる。
  分析協力:味の素株式会社

広がるうま味の活用

 うま味の機能は料理の世界のみならず、栄養学や医療など、さまざまな分野から注目されています。

うま味の減塩効果

 うま味は減塩にも効果を発揮します。塩分のとりすぎがさまざまな生活習慣病につながることは、多くの研究や統計などで指摘されています。けれど、料理をおいしく食べるには、一定量の食塩が必要不可欠です。極端に減塩した料理は味気なく、減塩がからだによいことがわかっていても、継続することはなかなか難しいものです。
 うま味を活用すると、おいしさを損なわずに減塩できることが確認されています。標準的なかき玉汁を用いた実験では、うま味を強くした場合とそうでない場合を比較したとき、うま味を強くした場合は使用する食塩の量を約30%減らしてもおいしく感じられたという結果が出ました。うま味を上手に使った調理をす ることで、減塩しなければならない方も健康な方と同じように楽しめるヘルシー な会席料理を提供する日本料理店もあります。

 毎日の食事にうま味を活用することで、使用する食塩の量を減らしてもおいしい食事を楽しむことができるのです。

高齢者の QOL改善

 うま味には、唾液の分泌をうながす効果があります。近年、味覚生理学の研究が進み、うま味物質グルタミン酸によって唾液の分泌がうながされること、またその分泌はイノシン酸を一緒にとることでさらに促進されることが確認されています。
 高齢者の味覚障害の原因のひとつは、唾液の分泌低下によるものとされています。このような障害は、うま味による唾液の分泌促進によって改善されるという報告があります。イギリスでもシェフと科学者のコラボレーションにより、うま味を活かした高齢者向けのメニューが開発されています。うま味の活用は、高齢者のQOL改善においても進みつつあるのです。

※ Quality of life(クオリティ・オブ・ライフ)のこと。生活や人生の内容の質や、人間らしく幸福 に暮らせているかについての尺度を指します。

うま味食材でフレンチもおいしくカロリーダウン

うま味食材でフレンチもおいしくカロリーダウン

生クリームやバターの使用量を減らす一方、ブイヨンの量を増やし、うま味の多い食材を活用することで、従来のポタージュに比べてカロリーを 1/3 に抑えられます。うま味を活用することで、おいしさとカロリーダウンの両方が実現できるのです。

協力:下村浩司氏(エディション・コウジ シモムラ)

だしのうま味を活用した減塩食

だしのうま味を活用した減塩食

通常よりだしの素材の量を増やしたうま味の強いだしで煮物をつくるなど、うま味を活かせば食塩の使用量を減らしてもおいしく食べられることに着目。塩分を控えなければならない方でも食事を楽しむことができます。

協力:田村 隆氏(つきぢ田村)

ヘルシーな日本料理に世界が注目

 近年、先進国の食のトレンドは、生活習慣病の予防や健康維持のため、動物性油脂分やカロリーを控える傾向にあります。そのような状況を背景に、日本料理はヘルシーな料理として注目され、世界中でブームになっています。
 日本料理は動物性油脂に頼ることなく、だしのうま味で素材の味を最大限に引き出しています。世界中のシェフが、こうした調理技術を学びに日本を訪れるようになりました。海外のシェフは日本のだしを学び、動物性油脂の代わりにうま味を活用する技を身につけます。そしてうま味を取り入れた独自のスタイルを築いています。

豊富な食材を使っていても低カロリーの弁当

だしのうま味を活用した減塩食

この弁当には 40 種類以上の食材が使われていますが、分析の結果、エネルギー量は 500kcal 以下でした。だしのうま味を活用して、素材の味を引き出す日本料理の技が発揮されているのです。

協力:村田吉弘氏(菊乃井)