うま味が多く含まれる食品
醤 油

醤油とは

「醤油(しょうゆ)」は、主に大豆と小麦、塩を発酵させてつくられる日本料理の味付けに欠かせない調味料です。

主原料は大豆と小麦と塩。微生物による発酵によって造られる液体発酵調味料で、半年から長いもので2年~3年もの時間をかけてつくられます。日本各地には1200にも及ぶ醤油蔵が存在し、それぞれの地域性のある醤油造りをしており、甘い醤油だったり、どろっとした濃厚な醤油だったりと地域の食文化を支える存在でもあります。日本料理にとって欠かせない調味料である「醤油」。世界各地でも愛用者が増加し、年々使用量が増えています。

本ページにご協力いただいた
「職人醤油」について

日本全国選りすぐりの醤油を100mlで統一して販売する「職人醤油」。「醤油本」の著者でもある代表の高橋万太郎氏はこれまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問。伝統産業・地域産業の中で「つくり手」と「使い手」の「つなぎ手」となる組織を目指して日々挑戦しています。いろいろな醤油を試してみたいという方はぜひ職人醤油からお買い求めください。ウェブサイトの言語は日本語になりますので予めご了承ください。

参考文献:「醤油本」
高島万太郎、黒島慶子著 / 玄光社MOOK(2015)

職人醤油

醤油の味

醤油は合わない食材を探す方が難しいほど、いろいろな食材の持ち味を引き立て、食欲の湧く味や香り、色に仕立てる万能調味料です。和食はもちろん、洋食や中華と、世界各国で愛用されています。なぜこんなにいろいろな料理に使えるのでしょうか?それは味の5大要素であるうま味、甘味、塩味、苦味、酸味、それらすべてを兼ね備え、香りの成分は300種類以上もあるためです。醤油を使うとその5味と香りが一体となって、料理に深い味を与えていきます。

味の5大要素+香りの成分300種類 味の5大要素+香りの成分300種類
  • うま味

    料理に深いうま味をもたらす

    醤油のうま味は、大豆と小麦に含まれるたんぱく質が、麹菌の酵素で分解され、約20種類のアミノ酸に変化して生まれます。中でもグルタミン酸は、醤油のうま味の主役です。

  • 甘味

    味をやわらげ丸みを持たせる

    醤油の甘味は、小麦のでんぷんが醸造中にブドウ糖やガラクトースなどに変化して生まれる他、グリセリンなどの糖アルコールやグリシン、アラニンなどのアミノ酸から生まれます。

  • 塩味

    料理に締まりをもたらす

    濃口醤油の塩分濃度は約16%。塩味が味に「締まり」を与えています。醤油は食塩を単独の味としてではなく、美味しく摂取するために昔の人が考えた「美味しい食塩」とも言えます。

  • 酸味

    塩味をやわらげ味をまとめる

    醤油には1%程度の乳酸と酢酸、コハク酸など約9種類の有機酸を含み、これらの有機酸は酸味として働くとともに、塩味をやわらげ、味を引き締める役割をします。

  • 苦味

    塩味や酸味と共にコクを出す

    苦味成分であるイソロイシンなどのアミノ酸やペプチド類が醤油の中に含まれており、苦味に作用するというよりも、塩味や酸味と一緒になって「コク」を出すための隠し味となります。

  • 香り

    醤油ごとに違う多彩な香り

    醤油を食した時に感じるおいしさに香りの影響は大きいです。醤油には花や果物やコーヒーなどの香気成分が複雑に溶け込んでいて、その数は300種類以上ともいわれています。

醤油の効用

さらに醤油には、魚の生臭さを消し、彩りを添え、美味しく感じるpH(弱酸性)にし、食材をより美味しくする効果・効用があります。この魔法の秘密は醤油を造る微生物にあります。日本固有の麹菌、酵母菌が絶妙にバトンタッチしながら大豆と小麦に含まれる成分を、3ヶ月から数年かけて分解し、味や香りの成分を生み出していきます。そしてそれらの成分が作用し合い、調和のとれた味や香りになっていくのです。

  • 消臭効果

    生臭さを消してくれる

    醤油をつけて刺身を食べるのは、味だけでなく醤油に生臭みを消す大きな働きがあるからです。日本料理の下拵えにある「しょうゆ洗い」は、この効果を利用して、魚や肉の臭みを消しているのです。

  • 加熱効果

    食欲をそそる色と香りを出す

    蒲焼きや焼き鳥などの食欲をそそる香りは、醤油中のアミノ酸と、砂糖やみりんなどの糖分が、加熱によりアミノ・カルボニル反応をおこし、芳香物質ができるためです。アミノ・カルボニル反応は、美しい照りを出す働きもします。醤油の色と香りを生かした照り焼きなどは、まさにこの反応を利用したものです。

  • 静菌(殺菌)効果

    日持ちをよくする塩分と酸

    醤油には、塩分と有機酸が含まれているため、大腸菌などの増殖を止めたり、死滅させる効果があります。しょうゆ漬けや佃煮などはこの効果を利用して日持ちを良くしています。

  • 対比効果

    甘味を一層引き立てる

    例えば、甘い煮豆の仕上げに少量の醤油を加えると、甘味が一層ひきたちます。一方の味が強く、他方の味がごくわずかな場合、主体の味がより強く感じられる、このような効果を対比効果といいます。

  • 抑制効果

    塩味を抑え和らげる

    漬かりすぎた漬物や塩鮭など、塩辛いものに醤油をたらすと、塩辛さが抑えられることがあります。これは醤油の中に含まれる有機酸類に、塩味を和らげる力があるためです。このように、混ぜたときに一方あるいは両方の味が弱められることを抑制効果といいます。

  • 相乗効果

    だしと働きあってつくる深いうま味

    醤油の中のグルタミン酸と、かつお節の中のイノシン酸が働き合うと、深いうま味がつくりだされます。このように、混ぜ合わせることにより、両方の味がともに非常に強められることを、味の相乗効果と呼びます。そばつゆや天つゆなどが、このよい例です。

醤油の種類

醤油には様々な種類がありますが、農林水産省の定めるJAS規格では5種類に分けられ、「白醤油」、「淡口醤油」、「濃口醤油」、「再仕込醤油」、「溜醤油」があります。またそれとは別に糖類や甘味料を添加した「甘口醤油」というものもあります。

白醤油

醤油の中で最も色の淡い琥珀色をした醤油。主原料は小麦で熟成期間は短く、うま味も抑えてあるので素材を活かすための醤油という存在。
醤油の色が付かないので豆ごはんや、お肉を漬けてフリッターなども。そして、素材の味わいを楽しみたいものに塩代わりに少量をかけるのもおすすめ。

  • 塩分 約17~18%
  • グルタミン酸 約
    460mg/100g

淡口醤油

西日本でお馴染みの淡い色の醤油。煮物やお吸い物など素材の彩りや出汁を活かしたい料理に使われます。
見た目は淡いけど塩分が高めなことが特徴。濃口醤油よりも少量で塩味が効いてくるので使用量も少なめですみます。素材の持ち味を活かす醤油なので、色を綺麗に演出することはもちろん、塩やレモン代わりにかけ醤油としても活躍します。

  • 塩分 約18~19%
  • グルタミン酸
    約730mg/100g

濃口醤油

国内で一般的な醤油です。流通量の8割はこれで東日本ではほとんどが濃口醤油。新鮮なものは綺麗な赤褐色で、北海道から沖縄まで各地で生産されています。万能という言葉がぴったりでつけ醤油から料理用途まで何にでもよくあいます。
ただ、開栓して時間が経つと酸化によって色が濃くなり風味が劣化してしまうので要注意。

  • 塩分 約16~17%
  • グルタミン酸
    約980~1680mg/100g

再仕込醤油

熟成期間の長い濃厚な醤油。醤油で醤油を仕込む製法で、濃口醤油に比べて2倍の原料と2倍の期間を要します。味と香りのバランスがよく、刺身に合わせる醤油として、まずお試しいただきたい醤油です。
刺身の他、ソースの代わりにフライや肉料理に。料理の隠し味や煮物の最後に少量加えてうま味をアップ。

  • 塩分 約12~14%
  • グルタミン酸
    約890mg/100g

溜醤油

大豆を主原料に仕込水を少なくすることでうま味を凝縮させた醤油。熟成期間も長くなるので見た目は濃く独特の香りを有することも。うま味成分は醤油の中でもトップクラスなので、そのままつけ醤油としてや照り焼きに使うと綺麗な照りがでると好評。
小麦を使っていないものもあり、グルテンフリーの醤油として海外でも人気が高まっています。

  • 塩分 約16~17%
  • グルタミン酸
    約1720mg/100g

地域特性の味わい

甘口醤油

九州や北陸などでは一般的な存在。海沿いの地域ほど甘みが強かったり、それぞれの土地に根差した醤油。地域によって甘さが驚くほど異なる。焼きおにぎりや卵かけご飯は人気が高い。白身の刺身にも。

日本農林規格(JAS規格)に甘口醤油という定義はありません。濃口醤油の製法による3タイプ、本醸造、混合、混合醸造のうち、混合と混合醸造を甘口醤油としています。これらはアミノ酸液を原料につかっている醤油で九州や北陸に多くみられる醤油です。アミノ酸液そのものに甘みはついていないのですが、甘味料を併用することが多いため甘みがついています。

醤油とうま味

醤油にはうま味成分である遊離グルタミン酸が豊富に含まれています。JAS規格5種類+甘口醤油の代表的な醤油を選び、うま味成分である遊離グルタミン酸量を調査しました。醤油によってうま味成分は変わりますのであくまで参考値となります。

グルタミン酸の
分析を実施した醤油

  • 白醤油 「有機白醤油」

    七福醸造 愛知県碧南市

    日本で最初に白だしを造った蔵元。有機の白醤油を手掛け、原料へのこだわりと製造現場の環境整備の徹底は圧巻。「ありがとうの里」と名付けられた工場は見学も可能。

  • 淡口醤油 「龍野本造り」

    末廣醤油 兵庫県龍野市

    何に使っても失敗しない淡口醤油です。しょっぱさも味わいも控えめで、調理に使って素材を引き立てる淡口本来の役割に徹してくれます。塩やレモン代わりにかけて使っても。

  • 甘口醤油 「さしみ醤油」

    久保醸造合名会社 鹿児島県鹿屋市

    鹿児島の中でも甘みととろみはNo.1。しっかりとした甘みの中にうま味とコクのある鹿児島特有のとろっとした醤油。重厚感のあるくせになる甘口です。料理にも。

  • 濃口醤油 「百寿」

    石孫本店 秋田県湯沢市

    同業者が驚く程に昔ながらのつくりを守り続けている蔵元。どんな素材にもあう万能タイプでリピーター多し。百寿独特の香りが特徴で、熱々のじゃがいもをバターとこの醤油で。

  • 再仕込み醤油 「鶴醤」

    ヤマロク醤油 香川県小豆島町

    約2年の熟成を経た醤油をもう一度桶に戻して、再び仕込みをしてさらに2年。深いコクとまろやかさを極限までの追求した醤油。バニラアイス、刺身、わさび醤油でお肉にも。

  • 溜醤油 「尾張のたまり」

    丸又商店 愛知県武富町

    グルテンフリーの濃厚な溜醤油。愛知県産の丸大豆と塩のみを杉桶の中で三年間熟成。大豆のうま味が凝縮したとろっと濃厚なコクが特徴。刺身にも料理にも。

醤油の選び方

色とうま味と塩味のバランス

それぞれの醤油を細かくみていくと、左の醤油ほど色が淡くてしょっぱく感じ、右の醤油は色が濃くてうま味を感じます。
そのため、そのままなめた時には、左の醤油=しょっぱいため、第一印象では苦手と感じる方が多く、右の醤油をおいしいと感じる方が多い傾向がありそうです。

種類毎の比較

素材を活かすか、醤油の味わいを足すか

素材に醤油をかけると、その印象が変わってくることがあります。
色が淡くてしょっぱい醤油も、例えば塩やレモンをかけて食したいような素材にかけると、素材そのもの魅力を引き立ててくれます。白身の魚や煮物やお吸い物などです。
一方で、ステーキやマグロの刺身などに、しょっぱい醤油をかけると物足りなく感じるかもしれません。濃厚でうま味の多い醤油をあわせると、一体感としての相性のよさを感じます。

食材と醤油の
おいしい組み合わせ

  • 白醤油
  • 淡口醤油
  • 濃口醤油
  • 再仕込醤油
  • 溜醤油
  • 肉+醤油

    岩塩をふって食べたいような上質な肉には濃口醤油を。塩味に醤油のうま味を少しプラス。肉そのものを味わうにはこれです。

    わさび醤油はもちろん、バターやガーリックなどと合わせても。醤油の存在感を活かしつつ、肉を美味しく味わえるはず。

    肉の脂やうま味に負けない濃厚な溜。熱を加えることで香りと照りが出ます。黒胡椒と溜のシンプルな味付けもぜひお試しを。

  • 豆腐+醤油

    おいしい絹豆腐。塩だけで食べたいような豆腐に。しょっぱさのある醤油が豆腐のもつ甘みをぐっと引き立てます。

    しっかり食感の木綿豆腐。木綿豆腐の濃厚な味わいにも負けないうま味のある醤油を。まろやかな一体感を楽しめます。

    普通の絹豆腐。濃厚なうま味たっぷりの醤油が豆腐を包み込み、甘みさえも感じる味わいになります。

  • 刺身+醤油

    白身の刺身、ホタテや甘エビなど、レモンやオリーブオイルをかけたい繊細な素材に。

    どんな刺身とも相性がよい万能タイプ。新鮮な刺身には新鮮な醤油がいちばんです。

    マグロの刺身にイチオシはこれ! 魚の生臭さを消してくれてうま味を引き立てます。

    脂ののった刺身にぜひ。醤油のまろやかさが活かされます。みりんと合わせて漬けにも。

  • 卵かけご飯+醤油

    こだわりの卵には淡口を。醤油味は控えめに、卵そのものの味を楽しむことができるはず。

    基本となる正統派の醤油です。他とトッピングを加えても上手にバランスを保ってくれます。

    濃厚でまろやか。卵と醤油の一体感を楽しむ醤油です。醤油の味が好き、濃い味が好きな方も。

  • 炊き込みご飯+醤油

    豆ごはんやとうもろこしごはんなど、色を活かすなら白醤油。ほどよい塩味が素材の甘みを引き立てます。

    ほんのり色をつけて、さりげなく醤油のうま味を添えてくれます。ぜひお試し下さい。

    醤油の色と香りがしっかり、おこげもおいしい濃口醤油。具だくさんの炊き込みごはんにもおすすめです。

  • バニラアイス+醤油


    アイスに醤油というと意外な組み合わせのように感じるかもしれませんが、バニラアイスに醤油をかけるとキャラメルやみたらし団子のような風味に早変わり。

醤油の歴史

日本の醤油は日本で生まれた

歴史上の資料に「醤油」の文字が登場したのは安土桃山時代。当時の日常用語辞典である易林本節用集の中に記されています。では、そこが醤油の起源かというと、必ずしもそうではなくて、それ以前に醤油らしいもの、または醤油の原型になるものは存在していたと思われます。

醤油の原型「魚醤・肉醤・草醤・穀醤」

穀物を塩漬けにしたものということでいえば弥生時代にはあったようです。また、中国最古の農業書「斉民要術」につくり方が書かれており、飛鳥時代に日本にも「醤」が伝わったとされています。醤は大きく三つに分類されます。魚や肉を塩漬けにした「魚醤」や「肉醤」。野菜を塩漬けした「草醤」。そして穀物を塩漬けしたものが「穀醤」で、醤油や味噌の原型といわれています。
また、鎌倉時代に覚心というお坊さんが中国から持ち帰った径山寺味噌の製法があって、味噌桶の底に溜まった液体がおいしかったということが醤油の原型になったという説もあります。和歌山県の湯浅が醤油の発祥の地と言われる由縁です。

醤油が西から東へ

本格的に醤油が生産されるようになったのは江戸時代。関ヶ原の戦い以降、江戸の人口が増し、急激に発展する際に上方文化の影響を受けました。1726年には「下り醤油」と呼ばれ、堺や大阪から運ばれてくる醤油が約76%を占めていましたが、次第に千葉県を中心に関東の醤油の質が向上し、1821年の醤油問屋の上申書によると125万樽のうち下り醤油はわずか2万樽にまで減少しています。

江戸時代の醤油づくりの模様。「広益国産考」巻之五 醤油造りより(国立国会図書館近代デジタルライブラリー)

そして全国に広がる

その背景には、江戸川や利根川を使った水運で江戸に早く届けることができたこと。そして、江戸の嗜好に合う濃口醤油が開発されたことがあるようです。天ぷらや蒲焼、寿司といった日本を代表する料理が完成するのもこの時期で、醤油が食文化に欠かせないものとなっていきます。
一方、近畿地方では淡口醤油が確立され普及していきます。農村では依然として自家製が続きますが、大正時代からガラス瓶の容器が使われるようになり、昭和になると物流網が整備させると全国の一般家庭へも広く行きわたるようになりました。

世界の調味料へ

日本の醤油がはじめて海を渡るのは江戸幕府の鎖国政策下の出島貿易です。オランダ船によってアジアやヨーロッパに輸出された記録は残っていますが、開国後も輸出量は限られたものだったようです。明治時代に入ると海外移民が増えます。日清日露戦争後は台湾、朝鮮、サハリンの領有、満州国の建設によって日本人の海外生活者がさらに増加し、海外での醤油の需要も高まっていきます。
大きく量を増やすのは第二次世界大戦後から。キッコーマンが醤油を焦がしたこうばしい香りと鶏肉をあわせた「照り焼き」をアメリカのスーパーで試食販売したことから始まります。第二次世界大戦後の占領軍として多くのアメリカ人が醤油に触れ、帰国後も自国で使うようになったことも後押しとなったようです。地道な努力を積み重ね、1973年にはアメリカのウイスコンシン州に現地工場をついに建設。国際化は一気に加速し、今ではヨーロッパや世界各地100ヶ国以上ので親しまれています。

醤油のつくり方・
原材料

基本の原材料は大豆・小麦・塩

醤油の基本原料は大豆・小麦・食塩。大豆のたんぱく質がうま味成分のアミノ酸に分解され、小麦のでんぷんが甘味や香りのもとになるブドウ糖に分解されます。そして、雑菌から守りゆっくり時間をかけて醸造させるのに欠かせないのが食塩です。
また、醤油づくりの主人公ともいえる麹菌も欠かせない存在です。醤油メーカーは麹菌を専門に扱う種麹メーカーから購入するケースがほとんどで、日本酒や味噌など醸造に関わるメーカーの多くも同様です。

  • 大豆

    醤油に使われる大豆には「丸大豆」と「脱脂加工大豆」の2種類があり、流通する醤油の8割以上は「脱脂加工大豆」から作られています。脱脂加工大豆は油をあまり含まない分、うま味成分が高く、成分の分解や溶出も早いという特徴があります。

  • 小麦

    小麦のでんぷんはブドウ糖に分解され、醤油の甘味や香りを作っていきます。大きくとらえると、小麦の成分が醤油の香りをつくっているといえますが、小麦にもたんぱく質は含まれています。それが分解されたアミノ酸がうま味成分となるので、醤油全体のうま味の約25%は小麦由来になります。

  • 醤油の味わいに欠かせない塩味。製造過程でも塩があることで雑菌から醤油を守って長期熟成を可能にしています。メキシコやオーストラリアなどの外国産の天日塩を使用する場合が多いようです。

  • 蒸した大豆を炒った小麦に混ぜ合わせて、種麹を繁殖させたものが麹です。種麹が成長する過程で生み出されるものが酵素で、この酵素が大豆のタンパク質をアミノ酸に、小麦のでんぷんをブドウ糖に分解してくれます。
    分解能力の高い酵素を生み出さないと後工程全てに影響するので、麹づくりが最も大切と表現されることも多いです。種麹を専門にあつかう種麹屋(もやし屋)から全国の醸造業者が購入をしています。

  • アミノ酸液やアルコール

    大豆や小麦の主原料の他に、米やうま味成分(アミノ酸など)、甘味料(ステビア、甘草、サッカリンなど)、保存料(アルコール、安息香酸ナトリウムなど)を加える醤油もあります。そして、九州などの甘い醤油が好まれる地域ではアミノ酸液を原料に使うことが多いです。アミノ酸液はトウモロコシや大豆などからつくられたうま味成分が凝縮されている液体で、搾った醤油とまぜ合わせたり、諸味の段階で入れて一緒に熟成させるなどの使い方をします。

一般的な醤油の作り方

  • 1.大豆を蒸す。

  • 2.炒って割砕された小麦を加えて混ぜ合わせる。

  • 3.種麹を混ぜる

  • 4.室の中で麹菌を繁殖させる。

  • 5.麹に塩水を混ぜることで諸味ができる。

  • 6.貯蔵し、発酵・熟成させる。

  • 7.圧力を加えて醤油を搾る。

  • 8.用途に応じた容器に入れられる。

知ってほしい
木桶仕込みのこと

木桶仕込みは醤油生産量全体の1%以下

江戸時代までは、和食のベースとなる醤油、味噌、酢、味醂、酒などの基礎調味料は「木桶」でつくられていました。ところが、費用対効果が合わないという理由で、桶仕込みの調味料は減少の一途をたどり、醤油業界の例では全体の1%以下まで落ち込んでいます。
大桶を製造する桶屋も1社のみとなり、木桶文化がなくなるぎりぎりのタイミングなのですが、ここにきて木桶が注目されています。特に若手の醸造家が木桶に魅了され、各地で新桶がつくられ、桶仕込みを再開する蔵元が増えています。

木桶仕込みが
おいしい理由

  • 桶も生きている

    木桶に使われることの多い杉の木材。その表面を拡大すると無数の小さな穴があり、発酵の主人公である微生物が住み着いています。そして、わずかに空気を通したり水分をため込んだりと、日々表情を変える姿は桶が呼吸をしていると表現されるほど。

  • その蔵元だけの生態系

    そこに住み着く微生物は、その蔵元特有の生態系をつくります。研究機関に持ち込むと、新種の微生物であることもしばしば。百年を超える歴史の積み重ね。その蔵元にしか出せない味の理由がここにあります。

  • 時間がつくる味

    桶仕込みの多くは春夏秋冬の温度変化に応じて発酵をする天然醸造。最低でも一年、長いものだと三年の時間を要します。時間がつくりあげる味わい。うま味成分のグルタミン酸の量が多くなるとの研究結果もあります。

木桶醤油

木桶職人復活プロジェクトが始動

そこで、これらの問題を解決するため、2012年 ヤマロク醤油の五代目 山本康夫さんの呼びかけから「木桶職人復活プロジェクト」がスタート。子や孫の世代に桶づくりを残すため、醤油屋と並行して桶屋をすることを決意。小豆島の大工である坂口直人さん、三宅真一さんと大阪府堺市にある藤井製桶所に弟子入りをしました。
桶仕込み醤油の流通量は全体の1%ほど。少ない市場を奪い合うのではなく、同じ志の蔵元が連携して市場を大きくしていこうと呼びかけると、全国の醤油蔵、酒蔵、味噌蔵、流通関係者に飲食関係者が年を経るごとに集結しています。
毎年1月、小豆島で桶づくりをすることが定例になっていて、集まる多くの参加者と共に作業をしています。その輪の広がりとともに、各地で新桶づくりがはじまっています。

資料・写真提供:KIOKE