世界のうま味文化

世界のうま味文化

世界の伝統食品とうま味

 世界には伝統的な調味料や食品が数多くあります。それらの多くは長期保存を目的に、発酵や乾燥、塩蔵のような加工がほどこされていますが、その過程でグルタミン酸などのうま味物質が増え、料理に豊かなうま味を与えています。
現在もその土地の人々に愛されているうま味食品の一部をご紹介します。

  • 豆または穀類を発酵させてつくられた食品・調味料ペーストか液体の状態で使われる
  • 魚介類を発酵させてつくられた食品・調味料ペーストか液体の状態で使われる
  • その他の食品・調味料
  • トマトが料理の味のベースとして日常的に用いられている地域
ご飯の国の味の基本は魚介と穀類

アジアの発酵調味料

ご飯の国の味の基本は
魚介と穀類

世界各地では様々な発酵調味料が使われています。タイのナンプラー、ベトナムのニョクマムのような魚醤類や、味噌や醤油に代表される穀醤油類はアジアの国々で古くから愛用されてきています。
発酵調味料は魚や豆類、穀物などの原料を塩漬け、発酵させたものですが、発酵の過程で原料中のタンパク質がアミノ酸に分解されることで、うま味物質であるグルタミン酸を豊富に含んだ調味料ができあがります。特にアジアの水田稲作地帯ではこれらの発酵調味料はうま味と塩味を加える調味料として毎日の食事に欠かすことはできません。特に味付けをしていない白いご飯とともに野菜や魚介類を中心としたおかずをとるのもこれらの国の特徴です。米食文化と「うま味」は密接なかかわりを持っているのです。

歴史の渦に消えた発酵調味料

古代ローマの発酵調味料

歴史の渦に消えた発酵調味料

古代ローマ帝国では、ワインやオリーブオイルと同じように貴重な食材として「ガルム」や「リクアメン」と呼ばれる魚醤が各地で作られていました。その製造方法は東南アジアで作られている魚醤と同じで、サバやイワシなどの魚を塩漬け、発酵させたものです。特に発酵したものを最初にろ過した琥珀色の一番搾り「ガルム」は大変高価なものとして珍重されていました。
有名な古代ローマの「アピシウスの料理書」には沢山のレシピが紹介されていますが、塩や砂糖がなかった当時のレシピにはガルムと蜂蜜が頻繁に使われています。ガルムはうま味と塩味を加える調味料として愛用されていたのでしょう。ローマ帝国の滅亡とともにガルムは姿を消してしまいますが、アンチョビーペーストやソースなどは、その名残であるといわれています。

歴史の渦に消えた発酵調味料
大航海時代が世界の食卓を変えた

世界に浸透したトマトのうま味

大航海時代が
世界の食卓を変えた

南米原産のトマトはコロンブスの新大陸発見によってヨーロッパに持ち込まれました。最初は薬用として使われていたようですが、イタリアで品種改良も行われ食用として使われるようになり、いろいろな料理のベースとしても使われるようになりました。今ではイタリア料理にはトマトは欠かせない食材ですが、その歴史は意外と新しいものなのです。イギリスではトマトを始め沢山の野菜を原料にウスターソースが作られ、やがてトマトソースやペーストとともにアメリカ大陸に渡り、ケチャップやチリソースなど、様々な加工食品が誕生します。今ではトマトは世界で最も生産量の多い野菜の一つで、トマトのうま味は世界各地で愛用されています。

イギリスの調味料のうま味

イギリスの調味料のうま味

イギリスのトップシェフ、クロード・ボジ氏(レストラン ハイビスカス/ロンドン)とサット・バインズ氏(レストラン サットバインズ ウィズルームズ/ノッティンガム)が来日した際、京都市立日吉ヶ丘高等学校にて英語科の2年生40名に、英語によるうま味の食育授業が行われました(2008年12月8日)。2人のシェフが披露したうま味メニューは、ボジ氏による『チーズ オン トーストの「リーペリンソース(ウスターソース)」かけ』と、バインズ氏による『豚バラ肉ソテーの「マーマイト」添え』です。 この2つのメニューのうま味について探ってみました。

『チーズ オン トースト』に使用したパルミジャーノ・レッジャーノ(パルメザンチーズ)、チェダーチーズ、「リーペリンソース」と『豚バラ肉ソテー』に添えた「マーマイト」のうま味(グルタミン酸の含有量)

食品名 遊離グルタミン酸量(mg/100g)
パルミジャーノ・レッジャーノ
(パルメザンチーズ)
1680
チェダーチーズ(熟成4ヶ月) 78
リーペリンソース
(レギュラー品)
34
マーマイト 1960

イギリスの調味料のうま味

『チーズ オン トースト』に使用したパルミジャーノ・レッジャーノ、チェダーチーズ、「リーペリンソース」と『豚バラ肉ソテー』に添えた「マーマイト」のうま味(グルタミン酸)の含有量を表に示しました。
パルミジャーノ・レッジャーノは、うま味を多く含む食品の代表格で100gにつき1680㎎もの遊離グルタミン酸が含まれており、チェダーチーズ(熟成4ヶ月)には78㎎、「リーペリンソース」には34㎎、「マーマイト」は濃縮された調味料で1960㎎も含まれていました。
ボジ氏の「チーズ オン トースト」に使用した「リーペリンソース」は、ウスターソースのひとつで、茶褐色のサラサラした液状の調味料です。今回使用した「リーペリンソース」はシェフ持参の特級品でしたが、レギュラー品はイギリスの家庭で広く使われており、およそ100カ国に普及しています。(*1)
ボジ氏が高校生の皆さんに「リーペリンソース」だけを舐めてみるようにすすめると「すっぱい!」「スパイシー」という感想でしたが、『チーズ オン トースト』に少量加えると、チーズと「リーペリンソース」が上手く調和し、チーズのうま味とソースのうま味がほど良く感じられました。
次に、バインズ氏が使用した「マーマイト」は、酵母(イースト)エキスや野菜エキスを原料にした植物性の調味料で褐色でねっとりとしています。イギリスでは100年以上前から販売されており、パンやクラッカーに塗って食べたり、今回のメニューのように肉に添えたり魚に添えたりして用いられています。(*2)
豚肉の焼けた香ばしさに「マーマイト」がマッチし、「おいしい!」の大歓声でした。バインズ氏は、次に調味料だけを皆さんに少量味わわせたところ、「濃い!」「うわぁ・・・」という声が上がりましたが、「マーマイトそのものは独特の風味があり、イギリス人でも好き嫌いがあるが、調味料なので、このように料理に使うと素材のうま味を一層引き立たせる。」と語っていました。

  • (*1) Worcestershire sauce(Lea & Perrins)
  • (*2) Marmite(Unilever UK Limited) ともに製品ホームページを参照
  • (*3) 真空調理:食材を生のまま、場合によっては調味料と一緒に真空包装し、湯せん などの低温で一定時間加熱してサーブする調理法のこと
  • (*4) 生のバラ肉を用いる場合、塩・コショーをし、ソテーし、十分に火を通す