北米から世界に「かつお節・だし文化」を届けたい From アメリカ・オレゴン州フォレストグローブ 取材協力:Yamaki USA, Inc.

現地で製造・販売
に至ったストーリー

1917年に愛媛県伊予市で削り節メーカーとして誕生し、一世紀にわたって「かつお節、だし」を中心とした食品の製造・販売を行うヤマキ株式会社は、2018年3月に米国における高品質な削り節・粉末の生産・販売を目的に、オレゴン州フォレストグローブにYamaki USA, Inc.を設立。同年11月に現地製造を開始しました。
先んじて東アジア(中国・韓国)では製造工場を設立し、現地製造した高品質なかつお節を現地の食文化にあわせて展開をしていました。韓国ではここ十数年で「かつおうどん」という、うどんにかつお節を振りかけて食すメニューが定着してきたこともあり、日本らしい食材として知られているといいます。

かつお節の確認をする人

Yamaki USA, Inc.

一方、昨今アメリカでは健康意識の高まりにより日本食の普及が著しく、2018年12月にJETROが公開した「米国における日本食レストラン動向調査」によると、全米の日本食レストランの軒数は18,600軒に及んでいます。また、「ラーメン」「うどん」といった麺メニューの市場が拡大しており、「だし」の提供価値が高まると同時に、ニーズも多様化しているといいます。これらのニーズに応えるため、ヤマキ株式会社では1984年より日本から輸出供給してきたアメリカ事業を拡大し、米国内の外食・加工メーカー向けに高品質の削り節・粉末を届けるためYamaki USA, Inc.を設立し、現地生産をスタートして着実に展開を進めています。日本を代表する削り節メーカーとして、アメリカ市場に本格的な「かつお節・だし」を届けて現地の食文化にあったかたちで楽しんでもらいたい、その大きな目標に向けて活動を続けているのです。

cauliflower flutter
(カリフラワーのフリッター)

現地で展開している
商品について

大きく分けて3つの種類の商品を製造・販売。
① 花かつおをはじめとした削り節
② 粉末(かつお節を粉砕したもの)
③ 粉末を入れただしパック

一番の主力商品は定番の①花かつお(削り節)。次いで、手軽に煮だして使える③のだしパックの需要が今後伸びるのであろうといいます。さらに、現地の人たちに花かつおをだし取り以外にも手軽に使ってもらえるよう、アメリカでも人気のお好み焼き・たこ焼き用のトッピング専用花かつお商品も販売されています。

使用する原料のかつお節は主にインドネシアや日本から仕入れ、現地工場で切削・粉砕等の加工をして製品化しているといいます。特に赤道直下で獲れるカツオは筋肉質で脂質が低く、かつお節製造に適しているためです。脂肪分が多いカツオの場合、だしが濁ってしまったり、節に成形して削る時に美しい花かつおにならず粉になってしまうため、主にインドネシアから良質なかつお節を原料として輸送しているのです。もちろん物流にもこだわり、コンテナの徹底した温度管理を取り入れています。
また、切削にも日本の開発者が生み出した独自の技術を取り入れ、花かつおの大きな特徴でもある湯気でゆらゆら美しく踊るような商品にするために、かつお節を削る幅や薄さが詳細に設計されているそうです。

okonomi fry
(フレンチフライのトッピングとして)

現地での使われ方・
反応

現地で展開している商品は基本的に外食店向け(B to B)に販売しており、花かつお商品のみ小売店でも販売されています。
外食店は日本食レストランが大部分を占めており、一部フレンチレストランでも導入されています。例えば、ニューヨークのザガット・サーベイで1位に輝くようなシーフードレストランでも花かつおが使われています。他にも、ロサンゼルスのフレンチレストランでは、かつお節との相性がとても良いとしてトマトスープに使われています。通常、飲食店には500g入りの業務用を納入して使ってもらうところを、このロサンゼルスの店ではあえて80g入りの小売用を希望して使っているとのことで、その理由としては、かつお節の新鮮さ、フレッシュさを重視しているため、一回で使い切れるようにこのサイズをあえて採用していたということでした。かつお節は香りが重要なファクターであり、そのことを理解して使ってくれているアメリカ人のフレンチシェフがいることに現地スタッフも勇気づけられたといいます。
また、一般的なアメリカ人には魚への抵抗感から敬遠されることもありますが、削りたての花かつおは「Smoky!」と高評価だといいます。たこ焼き・お好み焼きなどの現地でも浸透している日本食メニューの他、フライドポテトやカリフラワーのフリッターなど、アメリカの食文化における定番メニューにトッピングされる事例も出てきているようです。ゆらゆらと花かつおが踊る姿は現地の人にとても印象的であり、味だけでなく見た目にも楽しんでもらえているのです。

  • カリフラワーのフリッター
  • フレンチフライのトッピングとして

(左から)cauliflower flutter(カリフラワーのフリッター)、okonomi fry(フレンチフライのトッピングとして)

今後の展望

ヤマキ社として、「かつお節・だし」の活用はうま味や栄養面で美味しさと健康を訴求でき、アメリカ市場でも可能性を感じています。ただ、日本でも正しく理解している人が少ないだしの活用を現地に伝えていくのはまだ難しいため、まずは現地で人気の定番メニューのトッピング等に使ってもらうことで、かつお節という食材の認知を高めていくようなアプローチが大切だといいます。
ある時、アメリカ人がかつお節の厚削りをそのまま食べて「おいしいなぁ」と言っている様子を見て、スタッフは「そういうことか」と思いました。日本に比べておいしい魚が手に入りづらいアメリカでは、「かつお節=だし」にとらわれすぎずに、現地の食生活になじむ食べ物として柔軟に形態や提案を変化させていくことが必要なのだと気づいたといいます。高たんぱくで低脂肪な食べ物であり、ヘルシーなイメージもあるため、だし以外にも様々な提案の仕方がありそうです。今後もアメリカの人たちの素直な感想や意見に耳を傾けながら、日本での常識にとらわれることなく、かつお節という食材の魅力をより多くの人々へ届けていくため、これからもヤマキ社の挑戦は続きます。