本場枕崎の製法を受け継ぐ
フランス産かつお節
From フランス・ブルターニュ地域圏
コンカルノー
取材協力:Makurazaki France Katsuobushi Co., Ltd.

現地で製造・
販売に至った
ストーリー

2013年、枕崎フランス鰹節代表の大石克彦氏は訪仏した際にパリで食した味噌汁にだしが使われていないことに驚きました。「これだけ日本料理店がある欧州で、だしがなければ本来の和食文化が広まらないのではないか」と感じたといいます。ただ、日本の伝統的製法で作られるかつお節は、EUの衛生管理基準を満たさず、また魚を燻す工程で生成されるベンゾピレンという発がん性物質の含有量がEU基準を超えることで輸出することが出来ないのが実情でした。そうであれば、現地に工場を作って現地生産にすれば、その壁を乗り越えることができると決断したのです。
2014年4月に鹿児島県の枕崎水産加工組合とかつお節関連業者9社が出資し、「Makurazaki France Katsuobushi Co., Ltd.」を設立。工場設立準備と枕崎のかつお節製法を遵守しつつ、一番のハードルであったベンゾピレンについては、本来の鰹節の製法には欠かせない工程である木材の煙でいぶしながら乾燥する焙乾(ばいかん)工程を忠実に守りつつこの数値をコントロールする独自の技術を確立し、EUの衛生管理基準をクリアする製法にたどり着くまでの試行錯誤に2年の歳月をかけ、ようやく2016年8月にフランス、ブルターニュ地方のコンカルノーという港町に工場を竣工しました。日本でも稀な原料の仕入れからかつお節削りパックまでの一貫生産を行えるかつお節製造工場です。日本からかつお節、削り節専門職人を2名派遣し、フランス人の教育から始めたといいます。その後テスト生産を繰り返し、2017年4月に本格的に販売開始にこぎつけたのです。
かつお節製造に300年の歴史を持つ鹿児島・枕崎の名は、いまや高級かつお節の産地として認知されブランド名にもなっていますが、この枕崎の職人知識と技術の継承により、フランス・コンカルノーの町は欧州におけるかつお節の産地として注目を集めています。

薄削り
©Makurazaki France
Katsuobushi

現地で展開している
商品について

● 荒節のかつお節削りパック(薄削り、厚削り、糸削り)
● 薄削り(だし、またはトッピング用。使い勝手の良さから一番人気)
● 厚削り(主にだし用。うま味の強い濃いだしが取れることから、主に業務用としてラーメン、そば、うどんなど麺類の汁に使われている)
● 糸削り(その繊細さから上品な料理のトッピングとして使われることが多い)

厚削り
©Makurazaki France
Katsuobushi

現地での使われ方

主に日本食関連業者(和食料理店、アジア系食材店)や日本食が好きなフランス人に活用されています。ただ、現地のフレンチレストラン、グロッサリー店、オーガニック店にも少しずつ浸透しはじめています。
一番人気は薄削りで、いまでは「DASHI」という言葉を知っているフレンチの料理人が薄削りでだしをひき、ソースやブイヨンに使っています。味噌や豆腐を普段から食べているオーガニック店のお客さんも薄削りでだしをとり味噌汁を作ったり、魚や野菜を煮る際に使用しています。

  • 薄削り

  • 厚削り

  • 糸削り

厚削りは特にフランス各地で開店しているラーメン店で使われています。日本人経営だけでなくフランス人経営の店でも活用されています。
糸削りは飾り用としてアペリティフのペースト、サラダ、チーズのトッピングなどに使われています。例えば、フランス人マダムは週末の招待客のために、オリジナルのアペリティフとして糸削りをトッピングにしたりしているそうです。

現地の反応

これまでかつお節を見たことがないフランスの人たちが削り節を見ると、まず食べ物というより木の削りくずと思われることも多いそうです。例えば、工場があるコンカルノーの老舗フレンチレストランでは、温かい料理のトッピングで薄削りが使われており、花鰹が湯気で踊るのを見たお客さんは「なんだこれは!生きているのか?」と驚かれることも多いようです。厚削りは日本では業務用のだしで使われることが多いですが、フランスでは薄削りとともに小売店で販売されており、厚削りのきれいな赤紫色を見ると現地の人はビーフジャーキーを想像するようで、おつまみとして購入する人も多いです。そのまま食べるにはすこし硬いですが、購入するフランス人の話によると、しゃぶっていると味が出てきて美味しいと好評です。また、在仏日本人にとっては、これまで現地でかつお節が手に入らなかったので、現地で本格的なかつお節が購入できることを喜ばれています。
枕崎フランスのかつお節は食品安全規制が厳しいフランスで作られていることが安心と信頼につながり、さらに新鮮で良質な魚介類が豊富なことで有名なブルターニュで作られていることも付加価値となり、地産地消に敏感なフランスの料理人に評価されています。健康を気づかい自然食を好むフランス人には、フレンチのブイヨンと違って作るのに時間がかからない、脂っこくない、塩を使わなくても繊細な味があるかつおだしは、健康的で新鮮な味として評価されています。

糸削り
©Makurazaki France
Katsuobushi

今後の課題や展望

美味しいかつお節を作るためには原料となる魚が重要なポイントです。枕崎フランス鰹節では「Friend of the Sea」と「Dolphin Safe」の水産エコラベル認証を持つフランスのカツオ漁船により、インド洋で漁獲された良質の天然カツオを使って製造しています。
また、フランスはEU圏内でも他の国に比べて衛生管理基準が高く、国の機関による衛生検査が特に厳しい国です。そのため、食の安全を重視するかつお節工場では魚の重金属・ヒスタミン検査を行い、焙乾(ばいかん)工程で使われる木材チップについては残留農薬検査や金属検知検査を実施するなど、全ての製造工程における食品トレーサビリティ、品質・衛生管理を徹底しています。こうした厳しい衛生管理規定をクリアするとともに、少人数体制で職人技法の手作業で製造していることから、どうしても製造コストが高くなり、EU市場に出回っている他国で製造されたかつお節に比べると価格が割高になっています。本物のかつお節を欧州の人たちに知ってもらいたいというのが枕崎のかつお節関連業者の人たちの願いであり、その一心で全ての規則を遵守し正直なものづくりに取り組んでいるが、他社との品質の違い、価格の違いを理解してもらうにはまだハードルが高く、地道に価値を伝えていく必要があるといいます。
今後の展望としては、和食の観点からかつお節を紹介すると、日本食になじみのないフランス人には活用することが難しく感じられなかなか受け入れてもらえないため、素材やだしの魅力をアピールしつつ、現地の食材とともに使える簡単で身近な料理のレシピを提案していくことが重要になります。いずれはフランスの一般家庭でもかつお節がキッチンに常備される食材の一つとなり、普段の料理に取り入れてもらえるようになることを目指しています。