間違いだらけの「おいしさの表現」
2種類の香り
-鼻はなさきか香と口こうちゅうか香-

香りの情報を受けとる

町を歩いていると蒲焼の香りがしてくると蒲焼屋さんが近くにあることがわかりますね。香りの成分は、空気と一緒に鼻先から鼻腔に入ってゆき、嗅覚を刺激します。

蒲焼屋さんの香り

香りには2種類あり、食べ物を口の中に入れる前に鼻で感じる香りは「鼻先香」、食べ物を口の中に入れたあとに感じる香りは「口中香」と表現します。多くの人たちは、香り成分が鼻先から嗅上皮に到達して感じる「鼻先香」だけを「香り」と言っています。そのため、口の中に食べ物を入れたあとに感じる香り(口中香)と味を、まとめて「味」と表現しており、間違った使い方をしています。実際には、食べ物を口に入れたあとにも、香りを感じているのです。口腔内に入った食べ物から出ている香りの成分は、私たちの呼気(肺から二酸化炭素を排出している息)によって、口腔内から鼻腔の嗅上皮へと送られ、食べ物の香りを感じています。この香りを「口中香」と呼びます。

香りを感じる感覚 嗅覚

香り物質が、呼吸で鼻腔の嗅上皮に逆流すると口中香を感じる

鼻先香と口中香の役割

「鼻先香」と「口中香」には色々な働きがあります。「鼻先香」の場合には、食べ物を口に入れる前に、私達に食べ物の存在や、食べ物の種類を教えてくれます。また、食べ物が自分にとって好ましいか、そうでないかの判断もしています。食べ物の好き嫌いは、鼻先香で決まってしまいます。さらに、鼻先香は、私たちの体を守る働きもしています。食べ物が腐っているととても嫌な臭いがします。これによって、「食べると危険である」ことを私たちに教えてくれています。嫌な臭いは、「自分が嫌いなものを食べるという危険」から私たちを守っているのかもしれません。

嗅覚の役割

「口中香」は、食べ物を口の中に入れたあとに感じる香りですが、「鼻先香」と同様に、食べ物が何であるか、食べ物の種類を教えてくれる働きがあります。口に入れる前の見た目やかすかな肉の香りで、肉の種類はわかるかもしれませんが、本当のお肉の香りは、口の中に入れたお肉をしっかり噛んでいる時に感じられる「口中香」によります。焼き肉屋さんで値段の高いA5のとても軟らかい上カルビ肉を注文して、一噛みか二噛みして飲み込んでしまっては、高いお肉の味わいを味わっておらず、漬けているたれの味わいしか味わっていないかもしれません。軟らかいお肉こそ、少なくとも10回以上は噛んで、しっかりお肉から香りを引き出して「口中香」でおいしさを楽しんでほしいものです。

間違いだらけの
「おいしさの表現」