間違いだらけの「おいしさの表現」
食べ物の「コク」と
「おいしさ」は違う

コクは、昔からおいしい食べ物を表現する言葉としてよく使われており、カレー、シチュー、ラーメン、味噌、チーズなどの食べ物に使われています。最近では、マヨネーズ、コーヒー、ココア、キムチ、ビール、調味料などの商品名にもコクという言葉が使われるようになりました。しかし、日本で使用されているコクとはどのような味わいを指しているのでしょうか。

「コク」と「おいしさ」
は違う

私たちは、日常生活で、「コク」と「おいしさ」を同義語として使っている場合が多く見られます。しかし、これらは同義語ではありません。なぜなら、コクがあっておいしい食べ物は多いのですが、コクがなくても、おいしいものは、下記図のようにたくさん存在しているからです。コクのある食品は、カレーやシチューのように多くの食材を長時間煮込んで調理したもの、長時間熟成したチーズやワイン、醤油、味噌、ビールのように発酵させた食品の味わいで感じられます。

コクとおいしさの違い

食べ物のおいしさを決め
ている要因

コクのある食べ物の味わいは、味、香り、食感のすべての刺激で感じられる総合感覚であり、おいしさを決める1つの要因です。コクを「味、香り、食感に関する多くの刺激(複雑さ(深み))で形成されるものであり、それらの刺激に広がりや持続性が感じられる現象である」1, 2)と定義しました。

おいしさの判断

さらに、味に甘味、塩味、苦味、酸味、うま味の五基本味があるように、コクの要素として「複雑さ」、「広がり」、「持続性」を3つの基本コクとし、それぞれの強さで表現できることを提唱しました。また、その強さは、客観的に評価できると考えられます。

「味」と「コク」の
構成要素の比較

味とコクの構成要素の比較 味とコクの構成要素の比較

コクの複雑さは、加熱処理、熟成あるいは発酵過程で生じる多くの物質によって作られ、食べ物の味わいのベースとなります。

ブイヨンを調製する時、長く加熱すればするほど、素材からより多くの味成分が抽出され、また、抽出された遊離アミノ酸と糖との間では、アミノカルボニル反応(メイラード反応)が生じ、多種多様の香気物質ができるのです。これらの味や香りの刺激が、食べ物の複雑さを形成しています。発酵や熟成過程を経て製造される味噌やチーズでも同じように複雑さが形成されるのです。

食品のコクにおける
「複雑さ」の形成

刺激の強さは同じだが、加熱・熟成・発酵処理によって刺激の数(種類)が増える

加熱・熟成・発酵処理の時間

コクの「広がり」と「持続性」の増強メカニズム

刺激の強さは同じだが、増強物質によって感じる強さが大きくなる

コクの広がりと持続性の増強メカニズム

また、コクの広がりは、食べ物を口の中に入れた時に、食べ物の味わいが口腔内に広がる感覚の強さで示されます。コクの持続性の強さは、口の中に入れた食べ物の刺激が続く時間の長さで示すことができます。おいしいと感じるコクの各要素の強さは、食べ物によって違います。コクの広がりや持続性の強さも、強ければ強いほど、食べ物のおいしさを高めるわけではありません。このような理由から、コクとおいしさは、同じ意味ではないのです。

間違いだらけの
「おいしさの表現」