世界に広がるうま味の魅力
うま味受容体

©Ana San Gabriel

うま味が基本味であるとすると、当然うま味物質を特異的に感知する受容体が存在する筈です。L.Buckらは、1999年に嗅覚受容体がGTP結合タンパク質共役型受容体であることを明らかにして、ノーベル賞を受賞しました。(図20)

味の受容様式
図20 味の受容様式

この研究は、味覚受容体の研究に大きな影響を与えました。同じような手法で、味細胞から、2つの新しい受容体遺伝子 (T1r1とT1r2)が同定されました。互いに高い相同性を示すことから、T1r遺伝ファミリー と分類されました。ついでT1rファミリーに属するT1r3 も見いだされました。
さらに、T1r2とT1r3の複合体が,甘味受容体であることが明らかになりました。T1r遺伝子とは別に、T2r遺伝子が存在することも明らかになり、これが苦味受容体遺伝子であることが明らかになりました。嗅覚受容体と同様に、T1rファミリーは、細胞膜を7回貫通する構造をもっています。2002年にG.Nelsonら9)は、マウス由来のT1r1とT1r3の受容体複合体がうま味受容体であると報告しました(図21)。

味覚の受容体(T1r1 + T1r3)の構造
図21 味覚の受容体(T1r1 + T1r3)の構造

マウス由来のこのうま味受容体を培養細胞に発現させると、この細胞は多くの種類のアミノ酸に応答することと、これらの大部分の応答はイノシン酸の存在によリ増大することが示されました(図22)。以前、吉井と栗原10)は、ラットの神経応答を測定した結果、イノシン酸はグルタミン酸応答だけではなく、多くのアミノ酸応答を増強することを報告しましたが、この結果はマウス受容体の挙動とよく似ています。
ヒトの場合は、イノシン酸はグルタミン酸の応答のみを増強します。その後、X.Liら11)はヒトのT1r1+T1r3系では、イノシン酸はグルタミン酸の応答のみを特異的に増強することを見い出しました(図 22)。これは、ヒトの生理学的なうま味応答と非常に類似しています。ちなみに、イヌもヒトと同じくイノシン酸やグアニル酸は、グルタミン酸の応答だけを増強します。

  • T1r1+T1r3を発言させた培養細胞のアミノ酸に対する応答
  • T1r1+T1r3を発言させた培養細胞のアミノ酸に対する応答

図22 T1r1+T1r3を発現させた培養細胞のアミノ酸に対する応答9)11)

図23には、T1r1分子中のグルタミン酸とイノシン酸の結合部位の位置が示されています12)。両者は比較的近距離に存在しています。筆者がアロステリック効果で相乗作用が発現すると述べていた機構(図15)は、その後の理論的な考察で正しかったことが証明されました。
実はうま味受容体として、脳に存在するグルタミン酸受容体の1種であるmGluR413)とmGluR1が候補として挙げられていました。ラットやマウスでは、この受容体はT1r1+T1r3とともに受容体として働いている可能性もあります。ただしmGluR系の受容体は相乗作用を示しません。T1r1+T1r3がヒトやイヌと同じく大きな相乗作用を示すことから、うま味受容体の本命であると思われます。

うま味受容体のT1r1ユニットのIMPとMSGの結合サイト
図23 うま味受容体のT1r1ユニットのIMPとMSGの結合サイト12)

【文献】
9) Nelson G., Chandrashekar J., Mark A. Hoon M. A. , Feng L., Zhao G., Ryba N. J. R. and Zuker C. S. Amino-acid taste receptor. Nature 416, 199-202 (2002)
10) Yoshii K., Yokouchi C. and Kurihara K. Synergic effects of 5’-nucleotides on rat taste responses to various amino acids. Brain Res. 367, 45-51 (1986)
11) Li X., Staszewski L., Xu H., Durick K., Zoller M. and Adler L. Human receptors for sweet and umami taste. Proc, Natl. A cad. Sci. USA 99, 4692-4696 (2002)
12) Zhang F., Klebansky B., Fine R. M., Xu H., Pron in A., Liu H., Tachdjian C. and Li X. Molecular mechanism for the umami taste synergism. Proc. Natl. Acad. Sci. 105, 20930-20934 (2008)
13) Chaudhari N., Landin A. M. and Roper S. D. A metabolic glutamate receptor variant functions as a taste receptor. Nature 3, l 13-l 19 (2000)

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