世界に広がるうま味の魅力
基本味としてのうま味

ハワイで最初のうま味国際シンポジウムを開いた頃は、うま味の存在に否定的な研究者が多くいました。グルタミン酸ナトリウム(MSG)を食物に添加するとおいしさが増すことは、広く知られていましたので、アメリカでは、うま味という特別の味があるのではなく、うま味物質はFlavor Potentiatorであると結論されていました。すなわちうま味物質は、4基本味のどれかの味を増強させるから食物のおいしさを増すという解釈です。一方、山口静子は21種類の味物質の官能検査を行い、うま味は塩味、酸味、苦味、甘味とは独立の味であることを示しました(図14)。

官能検査法による味質の解析
図14 官能検査法による味質の解析4)

電気生理学的にも、うま味の研究が行われていました。ヒトの場合と同様にラットやマウスでも、グルタミン酸ナトリウム(MSG)とグアニル酸ナトリウム(GMP)またはイノシン酸ナトリウム(IMP)との間に相乗作用が認められました。ただし、これらの相乗作用はヒトに比べてはるかに小さいものでした。一方、イヌの場合は、ヒトに匹敵するほど大きな相乗作用を示します。図15には、イヌの鼓索神経(味神経の一種)の応答を示しています。図に示すように、それ自身では応答を示さない0.5 mMのGMP存在下で、MSGに対する応答は飛躍的に増大します5)。この論文を書いたとき、筆者らは相乗作用に関し次のような仮説を提唱しました(図15右図)。うま味受容体(当時は未知)の分子内にMSGとヌクレオチド(GMPまたはIMP)が結合するサイトが互いに近傍に存在し、アロステリック効果(1つの受容サイトに剌激物質が結合すると他方のサイトの剌激物質に対する親和性が増す)で相乗作用が発現するという説です。後に述べるように、うま味受容体の研究は、この機構を支持しています。

  • 対数MSG濃度(M)
  • グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸は同じ味

図15 イヌ味神経におけるMSGとGMP(グアニル酸)の相乗作用5)

それ以前の電気生理的実験では、MSG(Naイオンを含んでいます)を舌に与えたときの味神経応答は、うま味に対する応答ではなく、Naイオンの応答とされてきました。図16はマウス単一鼓索神経線維の応答を示しています。MSGを舌に与えるとよく応答する線維は、NaClにも応答します。

味応答(MSG)に応答する
線維はNaClにも応答する

マウス鼓索神経線維のMSGとNaClに対する応答
図16 マウス鼓索神経線維のMSGとNaClに対する応答

したがって、MSGに対する応答は、MSGに含まれるNaイオンによる応答とされていました。図17では、相乗作用で発現した大きな応答は、塩応答の阻害剤であるアミロライドを共存させても影響ざれないことを示しています6)。すなわち、うま味物質に対する応答は、明らかに塩に対する応答ではないことが証明されたのです。

イヌ鼓索神経のうま味応答と塩応答
図17 イヌ鼓索神経のうま味応答と塩応答6)

図18には、二ノ宮裕三と船越正也がマウスの神経応答を測定した結果を示しています7)。マウス舌咽神経(味神経の1種)線維のなかには、NaClにはほとんど応答しないがMSGに良く応答する線維が見られます。

  • マウス鼓索神経および舌咽神経線維の各種呈味物質に対する応答
  • マウス鼓索神経および舌咽神経線維の各種呈味物質に対する応答

図18 マウス鼓索神経および舌咽神経線維の各種呈味物質に対する応答7)

図19は、オックスフォード大学のE.T.Rollsらの実験結果を示しています8)。彼らは、サルの舌に味物質を与えたときの大脳味覚野の単一神経の応答を記録しました。一次味覚野と二次味覚野とも、MSGには良く応答するが他の味にはほとんど応答しない神経が存在することを示しました。

各種呈味物質をサルの舌に与えたときの大脳味覚野神経の応答 各種呈味物質をサルの舌に与えたときの大脳味覚野神経の応答
図19 各種呈味物質をサルの舌に与えたときの大脳味覚野神経の応答8)

1997年サンデイエゴで、第12回のISOT(嗅覚・味覚国際シンポジウム)が開かれました。その会でモネル研究所の所長であるG.K.Beauchumpと筆者がオーガナイザーとなり、うま味セッションを設けました。それまでの研究結果は、MSGに対する応答は既知の基本味に対する応答とは明らかに独立した味であることが示されていました。従来から、味は甘味、酸味、苦味、塩味の4基本味に分類されてきましたが、これとは別にうま味が存在することが明らかになりました。この結果、うま味は第5番目の基本味であることが認められました。このときの成果が、1998年1月14日のニューヨークタイムズ紙に、「うま味は第5番目の基本味である」として大きく取り上げられました。ちなみに2008年のニューヨークタイムズ紙には、umamiという単語を入れないと正解が得られないクロスワードが載っていました。

コラム ヒトとイヌの味覚

 私は、味覚と嗅覚の研究を長年行ってきました。味覚の研究のなかで、イヌを実験材料に使かったことがあります。そのとき、イヌの味覚はそれまで使ったどの動物よりも、ヒトの味覚に驚くほど似ていることを実感しました。なぜイヌの味覚がヒトのそれと似ているかは、私にとっては長年の謎でしたが、島泰三氏の「ヒト、犬に会う」という本を読んで理由が分かりました。
カニの味は、3つのアミノ酸(グリシン、アラニン、アルギニン)とうま味物質と食塩を適当な割合で組み合わせると、再現できます。この混合液は、本当に美味しいカニの味がします。ところが、この液から食塩を除くとほとんど味がしません。イヌで実験しますと、食塩はアミノ酸の混合物の応答を大きく増強します。ヒトと同じです。ところが、ラットで実験しますと、食塩の増強効果は見られません。ヒトでは汁粉に塩を入れたり、スイカに塩を付けると甘味が増します。イヌでは、糖の応答は食塩により大きく増強されます。ラットでは、食塩の糖に対する増強作用は見られません。とにかく、イヌの味覚はヒトのそれによく似ています。
ヒトでは、グルタミン酸とイノシン酸またはグアニル酸との間で大きな相乗作用が見られます。相乗作用は、単独のうま味物質より、7-8倍も大きなものです。ラットでも相乗作用が見られますが、その大きさは、単独のものより精々1.8倍程度です。ラットの相乗作用は、イノシン酸はグルタミン酸だけではなく、多くの他のアミノ酸との間で起こります。イヌの場合は、ヒトと同じく、イノシン酸はグルタミン酸との間だけで起こります。相乗作用は、ヒトと同じように非常に大きなものです。
 長年、イヌの味覚が何故ヒトのそれに似ているかが疑問でした。この度、島氏の本を読んで、この答えが分かりました。
 1万5千年前に、オオカミのなかにヒトに近づいてきたグループがいました。ヒトのそばにはヒトが食べ残した食べ物があります。いつも餌にありつけるので、ヒトと生活するようになりました。オオカミは危険察知能力がたけているので、外敵が襲ってきたことをヒトに知らせます。ときには、ヒトとともに外敵を襲撃します。ヒトとともに狩りもできます。ヒトもこのオオカミを信頼するようになりました。ここでイヌが誕生したのです。このようにして、1万5千年前からイヌはヒトと同じ食べ物を食べてきました。イヌの味覚は、ヒトの味覚に同化するように進化してきたのです。その結果、イヌの味覚はヒトのそれと驚くべきほど似てきたのです。イヌの遺伝子の98%はオオカミのそれと同じですが、味覚の遺伝子だけは、ヒトに合わせて進化したのでしょう。動物が生きていくのに、味覚がいかに重要な感覚であるかが分かります。

【文献】
4) Yamaguchi S. Fundamental properties of umami in human taste sensation. In: Kawamura Y. and Kare M.R. eds . Umami: a basic taste, NY, Macel Dekker, 1987: 41-73
5) Kumazawa T., Nakamura M. and Kurihara K. Canine taste nerve responses to umami substances. Physiol Behav. 49, 875-882 (1991)
6) Nakamura M. and Kurihara K. Canine nerve responses to monosodium glutamate and disodium guanylate: differentiation between umami and salt components with amiloride. Brain Res. 541, 21-28 (1991)
7) Ninomiya Y. and Funakoshi M. Quantitative discrimination among umami and four basic substances in mice. In: Kawamura Y. and Kare M. R. eds . Umami: a basic taste, NY, Macel Dekker, 1987: 365-385
8) Baylis L. L. and Rolls E.T. Response of neurons in the primate taste co11ex to glutamate. Physiol. Behav. 49, 973-979 (1991)

世界に広がるうま味の魅力