うま味インフォメーションセンター

活動報告

The Consumers Goods Forum The Global Summit 2011

2011.07.01

Eat well, Live well, with Umami Taste

Event Flyer:ダウンロード

The Consumer Goods Forum(TCGF)とは?
TCGFは世界70カ国650社を超える消費財流通業界の経営者とトップマネージャーのネットワークで、従来の国際チェーンストア協会を中心とし、Global Commerce Initiative (GCI:標準化推進団体)と食品・消費財メーカーの業界団体であるGlobal CEO Forumの三つの組織が合併して誕生した組織である。TCGFのミッションは社会的責任を果たしつつ、消費者やコミュニティーに対してより良くより早い段階で新しい価値を提供できるように強い意志をもって協働すること、そしてビジョンは 'Better Lives through better business'である。 バルセロナで開催されたThe Global Summit 2011では21世紀の人類社会の課題解決に貢献すべく食、健康、環境をテーマとした多くの講演が行われた。

食と健康
人類はこの数百万年の間に、甘味や塩味そして脂肪への嗜好を強め、十分な栄養を確保してきた。そしてそれは人間が生き残るための大切な条件だった。米国モネル化学感覚センター(The Monell Chemical Senses Center)所長ギャリー・ビーチャム博士(Dr. Gary Beauchamp)は、人類の発生当初には、エネルギー源となる糖質や我々の体に欠くことができない塩などの栄養素を入手するのは容易でなかったため、甘味や塩味に対する嗜好性を持つに至ったと解説している。しかし最近の100年でこの流れは変わった。食べ物は豊かに安価になり、その結果、我々は容易に脂肪、糖分や塩分を摂取できるようになった。そのため、先進国や成長国の平均寿命は延び、肥満や糖尿病、高血圧などの食生活に結びついた生活習慣病が死因の上位を占めるようになった。


グローバルサミット2011(スペイン,バルセロナ)
うま味インフォメーションセンターはTGCFのシェフセッションを通じてうま味とだしを使った健康的な食へのアプローチを紹介するとともに、グローバルに使える新しい'だし'のコンセプトを紹介し未来の食への提言を図った。日本料理の世界普及に積極的に取り組んでいる京都「菊乃井」主人の村田吉弘氏と日本料理を海外の食文化に取り入れ世界各地で幅広い経験を持つNOBUの主人松久信幸氏、さらに味と匂いに関する基礎研究の第一人者である米国モネル化学感覚研究所所長のBeauchamp博士を迎えて日本料理、だし・うま味、健康をテーマにトークセッションを行った。 「Eat well, Live well」と題したセッションでは世界で活躍する二人のシェフとBeauchamp博士、そして弊センター理事二宮くみ子氏は出席者へ、「うま味は国際的な味覚で、だしのコンセプトはどんな料理でも活用できる」というメッセージを送った。それでは、だしコンセプトとは何か?それはうま味リッチでカロリーはほとんどゼロのクリアな液体である。日本では伝統的に昆布と鰹節で作られてきた。

健康とうま味
「塩分や糖分、脂肪分の取り過ぎを避け、カロリーと塩分摂取量を調整しましょう。」と言うことは簡単だが、誰も健康のためにおいしさを犠牲にしたくはなく、つい塩分やカロリーの取り過ぎになる傾向がある。うま味をうまく活用すればおいしさを犠牲にせずに健康的な食生活を実現できる、というのが、我々が発信したメッセージだ。脂肪分を減らした料理でもうま味によって全体の味をうまく調和させることができる。その例として村田氏が提供した松花堂弁当を紹介。季節の野菜を中心に美しく盛りつけられた松花堂弁当には40種類の食材(その内20種類が野菜)が使われている。実際にこの松花堂弁当の総エネルギー量を計算したところ、450kcalであり、約120gのビーフステーキと同じカロリーであり、満足度ははるかに高いものであることを紹介した。


新しいスタイルの'だし'
村田吉弘氏は新しいスタイルのだしのプレゼンテーションを行った。うま味物質はアミノ酸の一種であるグルタミン酸や核酸のイノシン酸、グアニル酸に代表されるものであり、昆布、鰹節、干椎茸に限らず様々な食材に含まれている。村田氏が紹介した新しいスタイルの'だし'はドライトマトのグルタミン酸、鶏胸ひき肉のイノシン酸、ドライモリーユ(編み笠茸)のグアニル酸を活かした'だし'である。'だし'のコンセプトを理解することで、様々な素材から新しいスタイルの'だし'ができあがった。使った素材が欧米人になじみのあるものであれば、抵抗感なく'だし'を欧米の料理に取り入れることができそうだ。会場の外に用意されたSoup Barでは多くの欧米からの参加者が集まり、日本の一番だしと新しいスタイルの'だし'の味を慎重に比較していた。

Arroz con Dashiと料理の革新性
松久信幸氏は土鍋にあらかじめ炊いた玄米と村田氏の作った新しいスタイルの'だし'とサフランを加え、バルセロナで入手した新鮮な魚介類と野菜を載せて、蒸し焼きにした料理を紹介した。彼がつけた料理名はスペイン語で"Arroz con Dashi"(英語にするとRice with Dashi, スペイン風炊き込みご飯といったところ)と名付けた。油を使わず、'だし'と視線な魚介類のうま味を活かした一品だ。更に村田吉弘氏は新しいスタイルの'だし'でアサリの味噌汁を作り、Arroz con Dashiに添えてヘルシーな食事の完成。新しいスタイルの'だし'は変幻自在でありさまざまなジャンルの料理に活かせることを印象づけた。

世界を代表するこの二人の日本人シェフが、うま味の確実な理解をさらに広げた。彼らの提案したうま味料理は'だし'のコンセプトをベースに創作されたという斬新さだけでなく、まったく脂肪をふくまず、しかも豊かな味わいと香りを実現できるという健康面での意味を印象付けた。6月17日付Wall Street Journal(週末版)には、油脂分がなくても満足感が得られる料理を目指すシェフたちが紹介されていた。ロンドンのレストラン「Quince」のシェフ、シルバーナ・ロウ(Silvena Rowe)は中近東料理を得意としているが、脂肪を減らした料理を追求している。彼女の言葉を借りると、彼女は"トルコ版NOBUスタイルの料理"を目指したいという。そして彼女はその夢を脂肪分をゼロにし、ハーブとフルーツを加えることで実現しようとしている。スウェーデンのシェフ、ビョルン・フランセン(Bijorn Frantzen) やシェフ、ダニエル・リンドバーグ(Daniel Lindeberg)なども、味に対するより鋭い感覚を抱き、食材を自らが栽培し、その品質にも厳しい目を持ち始めている。彼らの料理にJapanese Style Dashiを使っている。世界の食シーンでうま味がこれまで以上に存在感を持つようになるだろう。

次世代のシェフたち
バルセロナの和食レストラン「Koy Shunka」オーナーシェフ松久秀樹氏とロンドン「Sakeno hana」の料理長林大輔氏は、NOBU松久信幸氏と村田吉弘氏のデモンストレーションでの強力な助っ人だった。松久秀樹氏にはその若さにもかかわらず、大変賢明な信念がある。彼はスペインで一番の日本料理を作るためには、最高のスペインの食材、魚介類やマッシュルーム等の野菜が必要だと考えている。そして最後の段階で和風のたれやだしで日本風のアクセントを効かせて仕上げる。彼の料理を純和風ではないと言う人もいるが、彼のスペイン食材への深い見識と高い順応力で、スペイン人の嗜好に合う本物の日本料理を作る料理人となり大きな成功を収めている。同じように、林大輔シェフはロンドンで手に入る良質の食材による料理を提供している。若いシェフたちが各国での体験をもとに新しいスタイルに挑戦を続けている。

会場外観
会場外観
松久信幸氏(左) & 村田吉弘氏(右)
松久信幸氏(左) & 村田吉弘氏(右)
Gary Beauchamp博士
Gary Beauchamp博士