うま味インフォメーションセンター

活動報告

【開催報告】 日本スペイン交流400周年記念 ガストロミー講演会 「うま味がつなぐスペインと日本の食」

2014.03.10

日  時 平成26年2月17日(月)午後1時~3時
場 所 セルバンテス文化センター東京 / (第1部)オーディトリアム(BF) / (第2部)ギャラリー(2F) / 東京都千代田区六番町2-9セルバンテスビル
参加者 128名(日本料理・スペイン料理のシェフ、料理・食文化研究家、セルバンテス会員等)
登壇者 山田 チカラ氏 (麻布「山田チカラ」オーナーシェフ) / アナ・サン・ガブリエル(スペイン バルセロナ出身 獣医師)(NPO法人うま味インフォメーションセンター学術担当)
報告者 NPO法人うま味インフォメーションセンター 渡辺 章

NPO法人うま味インフォメーションセンター(UIC)は、セルバンテス文化センター東京(1991年スペイン政府により設立)との共催で、2月17日(月)午後1時より、日本スペイン交流400周年記念ガストロミー講演会「うま味がつなぐ日本とスペインの食」を開催いたしました。

2013年は、仙台藩主伊達正宗がスペインのフェリペ三世へ支倉常長を大使とする慶長遣欧使節団(1613年から1620年)を派遣してから400年にあたり、昨年6月から本年7月までの1年間にわたり、日本、スペイン両国で、美術、音楽、伝統芸能等の記念行事が催されています。
また、スペイン料理界は、近年のガストロミー界をリードし、その影響力は欧州のみならず、北米・南米やアジアの料理界にも及んでいます。一方、日本料理は、だしとうま味を上手に使って食材の味わいを活かしたヘルシーな料理として欧米から注目され、特にうま味については各国のトップシェフの関心が高まっています。さらに、昨年12月、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録され、世界中からさらに注目が集まると期待されています。
この機会を捉え、UICでは、日本とスペイン両国で料理の修業をされ、現在は麻布「山田チカラ」オーナーシェフとして、独自の創作料理で注目を集める山田チカラ氏を講演者に迎え、弊センター学術担当のアナ・サン・ガブリエル(スペイン バルセロナ出身)のコーディネーターによるうま味講演会を企画実施いたしました。

第1部では、セルバンテス文化センター東京 文化部長Teresa Iniesta氏の開会ご挨拶に続き、スペイン バルセロナ出身のアナ・サン・ガブリエルの質問に対し、山田氏がご自身のスペインでのご経験を交えてお話する形で進みました。


Q. なぜシェフという職業を選んだのでしょうか。
A. 何かを作る仕事、体を動かす仕事がしたいと思い、高校卒業後に熱海のホテルでフランス料理の仕事についたのがきっかけです。
Q. 修行先にスペインを選んだ理由は?
A. いつか海外で仕事がしたいと思っていたのですが、特にスペインを意識したわけではなく、父が建築家で小さいころからガウディーやミロ、ピカソなどスペインの芸術家の写真集や美術書が身近にあったので自然とスペインを選んでいました。
Q. フェラン・アドリアとはどのようにして出会ったのですか?
A. 28歳のときに一旦帰国し、六本木のレストランで働いていた時にスペイン大使館のプロモーション企画でアドリア氏が来日。テレビの密着取材があるため、料理が分かりスペイン語ができる通訳兼スタッフとして1週間ほどアドリア氏一行と行動し、以前から「El Bulli」で働いてみたかったとアドリア氏に伝えたところ、直ぐにOKとなり、アドリア氏の後を追うように再びスペインに向かいました。
Q. 「El Bulli」では、フェラン・アドリア氏から何を学びましたか?
A. 発想する力、人を上手に使うリーダーシップに優れたフェランの口癖は、「何故そうなるのか自分で考えなさい。考えて、考えて、答えを見つけるまで突き詰めて考えて。」でした。2週間に一度の技術勉強会は、とてもオープンでフラット。この時は厨房のスタッフの上下関係も無く、アドリア氏も質問にはオープンに答えてくれました。
「El Bulli」での1年半は、とても貴重な経験となり、是非自分のお店を日本で持ちたいという思いとなって帰国しました。
Q. スペインと日本の食材や食文化の共通するところ、異なるところは?
A. スペインも日本もそれぞれの土地に素晴らしい食材があり、地産地消でその土地独自の食文化を築いてきていると思います。異なる点を一つ上げれば、食材の流通網ではないでしょうか。東京では世界中の食材が手に入りますが、マドリッドはそうでないと思います。スペインで、バルセロナがあるカタル-ニャ地方のワインはよく飲みましたが、その他の地域のスペインワインは東京に戻ってから知りました。また、スペインの食材と日本の食材の共通するところは、うま味が豊富な食材が多いということだと思います。例えば、トマトや生ハム、チーズはうま味成分のグルタミン酸が豊富でスペイン料理によく使いますし、日本料理ではグルタミン酸の豊富な昆布やイノシン酸を多く含むかつおぶしをだしに使います。
スペイン料理と日本料理は、異なる食材でもうま味という共通する味覚があり、うま味を理解し、その機能を上手に使うことでおいしい料理となります。
Q. 帰国後スペイン料理ではなく日本料理のお店をオープンされたのはなぜですか?また日本料理へのこだわりは?
A. 自分の料理は、見た目はスペイン料理ではないが、生ハムやチーズ、オリーブ油も食材として使っていて、お客様が望む料理、期待する料理を提案し、スペインで学んだ豊かな時間が過ごせる食事空間の提供を目指しています。
また、妻の影響もあって、茶道、茶懐石に深い興味があり、料理においても、シンプルであまり手をかけずに素材の良さを活かすミニマリズムを理想としています。

また、コーディネーターのアナ・サン・ガブリエルから、代表的なうま味成分であるグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸とそれらを多く含む食材やうま味の相乗効果、発酵・熟成によってうま味は強くなるなど、うま味に関する基本情報について解説し、うま味についての理解を深めていただきました。


第2部は2Fギャラリーでうま味体験を行いました。


プチトマトを使ったうま味体験

五感を使いながらプチトマトを30回噛み、うま味がどのような味なのかを体感。

山田チカラ氏が特別に準備された料理のうま味体験
「生ハム、マンチェゴチーズの盛り合わせ」(スペインを代表するうま味食材)
スペイン風モツ煮「カジョス」(モツと日本の干し椎茸のうま味を組み合わせ)
「カルソッツ カタルーニャのネギ焼き ロメスコソース」(ニンニクとナッツとパプリカが効いたロメスコソースと昆布締めにした焼きネギという、スペインと日本のうま味がフージョンになった料理)

試食後には活発な質疑応答が行われました。 パエリアのうま味、塩漬けしたオリーブのうま味など、スペイン料理や食材に関する質問や、うま味の相乗効果と同様に香りとでも相乗効果が起きるか、うま味は温度によって感じ方が違うかなど、かなり専門的な質問もあり、山田氏とアナ・サン・ガブリエルのお二人は丁寧に分かりやすく答え、参加者の理解を深めました。

最後に会場から、今日の試食は正にカタルーニャ料理だが、ワインより日本酒の方が合うと思うというご感想に対し、冷たい状態で召し上がっていただくので極力油を使わずに調理したこと、また干し椎茸や昆布締めでうま味を足したことにより、日本酒に合う味になったのではないかと解説され、参加者全員が正しくうま味がつなぐスペインと日本の食を体感いたしました。

こうして、あっという間に2時間が経過し閉会の時間となりましたが、楽しいお話とおいしい試食に対して、参考になった、興味深い内容だったとご参加の皆さまからお褒めの言葉をいただきました。

当センターでは、うま味の理解・普及に向けて、このような活動をこれからも続けてまいります。引き続きご支援よろしくお願い申し上げます。

山田チカラ氏
山田チカラ氏
アナ・サン・ガブリエル氏
アナ・サン・ガブリエル氏
プチトマトでのうま味体験の様子
プチトマトでのうま味体験の様子
(左下)生ハム、マンチェゴチーズの盛り合わせ(右下)スペイン風モツ煮「カジョス」(奥)「カルソッツ カタルーニャのネギ焼き ロメスコソース」
(左下)生ハム、マンチェゴチーズの盛り合わせ(右下)スペイン風モツ煮「カジョス」(奥)「カルソッツ カタルーニャのネギ焼き ロメスコソース」