うま味インフォメーションセンター

活動報告

タイでコクとうま味のクッキングイベントTruth of Japan Tasteを開催

2024.01.24

日本料理とタイ料理、両国は5000キロも離れていますが、ある共通点があります。それは、料理にうま味物質とコクを活用していること。日本料理ではみそやしょうゆ、タイ料理では魚や海老を発酵させたナンプラーやカピといった調味料を使うことで料理にうま味物質やコクをプラスするのです。しかし多くの人は、うま味とコクがどのような味わいで、実際にどのような効果をもたらしているのかを知りません。それを体感するクッキングイベントがバンコクで開かれました。

2024年1月24日に開催されたこのイベントの主催者は、Sensory Scienceを軸とした研究者と民間企業のネットワークSSBW**です。    
Sensory Science:感覚科学。五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を通じて、体の外の世界を私たちがどのように認識しているのか、感知した情報が嗜好や感情にどのように影響するのかを研究する科学分野。 
**SSBW:Network for Sensory Science for Better Well-being “より良い幸福のための感覚科学ネットワーク”の略。タイとアセアンにおいて、最新の感覚科学の知見を共有し、健康で持続可能な食環境の創出を目指すことで、社会的なウェルビーイングを高めることを目的としている。
イベントには、感覚科学や栄養学などの研究者や企業人ら40人が参加しました。東北大学教授でうま味研究会会長の坂井信之博士による開催の辞に続いて、チュラロンコン大学のスイモン博士、タイ栄養士会のチャニダ博士がスピーチ。自然や環境にやさしく、しかも誰もが健康になれる食環境を整えることの大切さを述べ、このイベントを人々の栄養と健康を考える上で役立ててほしいと語りました。

メインイベントは和食のシェフと科学者の美食学コラボレーションです。
辻調理師学校の大引伸昭シェフが和食の調理デモンストレーションと試食を担当、そしてうま味インフォメーションセンターの西村敏英副理事長がうま味とコクの解説を行いました。

大引シェフは和食の技を披露しつつ調理のコツを説明、日本から用意してきた昆布とかつお節でだしを引き、現地マーケットで調達した新鮮な海老を調理して2種類の海老しんじょう椀に仕上げました。一つ目の椀の汁は澄まし汁に、二つ目は味噌椀に仕立てたものです。二種の椀で、うま味とコクを体感するという趣向です。

同時に、西村博士が和食のだしのうま味物質が何に由来するか、相乗効果とは何かを科学的に説明、さらにコクとは何かを説明しました。食品にコクをもたらすには3つの要素「複雑さ」、「広がり(濃厚さ)」、「持続性」が不可欠です。西村博士は、コクがどのように形成され、うま味物質によりどのように増強されるかを説明しました。

そして試食タイム。参加者はどちらがよりコクを感じるか食べ比べました。結果は満場一致で「二番目のみそ仕立ての方によりコクを強く感じる」。参加者はコクの要素—味わいの複雑さ、広がり(濃厚さ強さ)、そして持続性(余韻)の違いをしっかりと感じ取ることができました。
ただし、好ましさの評価は、票が分かれました。おいしさの感じ方は、その人の嗜好や文化的背景等によって異なることを、参加者それぞれがあらためて認識しました。

和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて10年あまり。タイでも、世界3大スープの一つに数えられる「トムヤムクン」が登録に向けて準備中です。「トムヤムクンのうま味とコクについても研究したい」という西村博士の発言もありました。
うま味物質の働きとコクとは何か、どんな風に私たちの健康にかかわっているのか。両国に共通するおいしさの要素を通して、おいしさと栄養、そして調理とウェルビーイングの関係を参加者の皆で考えるイベントとなりました。