ロンドンで和食ユネスコ無形文化遺産登録10周年記念イベントを開催
2024.03.11
2024年3月11日、うま味インフォメーションセンター(UIC)は、農林水産省、日本料理アカデミーEUと共に「和食ユネスコ無形文化遺産登録10周年記念シンポジウム inヨーロッパ」をイギリスロンドン市内のジャパンハウス・ロンドンで開催しました。対象は、ヨーロッパで活躍するプロの料理人、食関連事業者、輸出入事業関係者、メディア、フード系ライター、インフルエンサー等約130名。日本産水産物を使った調理デモと試食を交えながら、Washokuの要である“うま味”と“発酵”の魅力を伝え、日本食と食文化の新たな方向性をアピールしました。
シンポジウムは、ジャパンハウス館長と農林水産省輸出・国際局からの挨拶に始まり、ロンドンの懐石料理店「露結」のオーナーであり日本料理アカデミーUK副理事長の、林大介シェフから和食ユネスコ無形文化遺産登録10周年に向けた基調講演のあと、3つのテーマで進行しました。
テーマ1:セミナー「うま味の力」
登壇者は二宮くみ子博士 (UICコンサルタント)。始めに、UICが2004年以降世界中のトップシェフに対して料理を科学的に説明してきたことや、ともに世界各地への日本料理の普及を使命とする日本料理アカデミー、そしてその名誉理事長である菊乃井村田吉弘氏が和食をユネスコ無形文化遺産登録に貢献した一人であることを紹介しました。
メインは、和食のだしの味の決め手となる「うま味」講義。池田菊苗博士によるうま味の発見、相乗効果、日本と西洋のだしの違いを説明した上で、うま味は世界のCommon Tasteであり、中でも日本のだしはうま味がSimpleに感じられるうま味ソリューションであると伝えました。
講義に続けて、五感でうま味を理解するための調理デモと試食が行われました。1品目は、ロンドンの寿司レストランYashinの池田伸也シェフによる「ハマチマーマイト昆布〆の鮨」。ハマチを漬け込むたれに、醤油と酒に加えてイギリスの伝統的なうま味たっぷりの調味料「マーマイト」を合わせているのが特徴です。2品目は、前述の林大介シェフによる「帆立と豆腐のブリュレ 茸ジュレ添え」です。茸の出汁にはセップ茸、昆布、ドライトマト、ドライモリーユを使い、西洋と日本を融合した合わせ出汁でした。
テーマ2:セミナー「発酵の力」
登壇者はイギリスのジョニードレイン博士。博士は発酵に関する情報を積極的に発信されており、UICにもトークセッションなど多大なご協力をいただいている、研究者兼シェフです。セミナーでは、なぜ日本は発酵が多用されたのかといった考察を交え、日本の発酵はSuccess to umami、発酵によってうま味が増えているのです、と語りました。
講義に続けての調理デモと試食は3つ。1品目はスペインバルセロナの日本料理店Koy Shunkaの松久秀樹シェフによる、ハマチの塩麹〆コールラビの漬物添えです。十分に発酵させた塩麹にハマチを漬け、ヨーロッパではポピュラーな野菜、コールラビ(日本名で蕪甘藍、キャベツの仲間)を薄塩で漬けたものを合わせ、ソースは昆布と鰹の合わせ出汁とハマチのあら、コールラビを用いた、発酵づくしの一品でした。2品目はドイツデュッセルドルフのレストランNagayaの長屋佳澄シェフによる鯛の酢〆。黒胡麻酢ソースの上に鯛の酢〆、その上に赤ビーツの塩麹漬けや土佐酢ジェルが盛り付けられました。3品目は茶懐石秋吉の秋吉雄一朗シェフによるホタテと糠漬け発酵キャベツの煮物。何れも日本産水産物と現地で馴染みのある食材を使い、発酵によるうま味を活かしたオリジナルメニューでした。参加者は試食をしながら聴講、ここでしか味わえない現地と融合した日本食を楽しみ、料理の中のうま味や発酵によるうま味を感じていただきました。
テーマ3:西洋圏の食文化におけるWashokuの未来
菊乃井ご主人村田吉弘氏と2008年UIC主催の「うま味サミットin京都」に参加したイギリスのトップシェフ2人※が当時を振り返る和やかかつ貴重なパネルトーク。和食が自分の料理に与えたインパクトや和食と食文化の新たな方向性についてアピールしました。2008年当時のシェフ達の写真も紹介されました。
※クロード・ボジシェフ(Claude Bosi at Bibendum/イギリス 二つ星)
サット・ベインズシェフ(Restaurant Sat Bains/イギリス 二つ星)
最後は、和食ユネスコ無形文化遺産登録とその後の維持継承に多大な貢献をされている、菊乃井主人村田吉弘氏による挨拶「伝統ある和食も、国際化や時代の流れに合わせ、新しいものも許容していく方向にしたい」でイベントは締めくくられました。
和食という日本の伝統的な食文化や和食の魅力を、うま味や発酵を活かしたヨーロッパの食材との融合という新しい形で受け入れられていくことを、実感したイベントでした。