第13回国際ハム会議に参加(スペイン・グラナダ、2026年4月28~30日)
2026.04.28
世界中で愛されているスペインの生ハム(Dry-Cured- Ham)。そのおいしさの秘密を、うま味インフォメーションセンター(UIC)が科学的に解説しました。
2026年4月28-30日、スペインのグラナダで「第13回国際生ハム学会」が開催されました。世界各地から集結した第一線の専門家たちが、生ハムを取り巻く最先端の技術やサステナビリティの問題、官能評価、品質などについて様々な意見交換を行う中、UIC理事長の西村敏英博士は、会場に集まったシェフや栄養士、そして食通の皆さんを魅了する講演を行いイベントを盛り上げました。
講演は、単純なようで実は深い一つの問いかけから始まりました。「なぜ生ハムはこれほどおいしいのでしょうか?」
博士は、その答えはしばしば混同される三つの概念、うま味(Umami)、コク味(Kokumi)、そしてコク(Koku)を理解し、それらがどのように相互作用して豊かで満足感のある食体験を生み出しているかにある、と語りました。
<おいしさを理解する新たな視点>
おいしさは味だけで決まるものではありません。西村博士は、私たちが食べ物を口にするとき、その味わいは、味、香り、テクスチャーが統合されることによって知覚されると説明しました。味、香り、テクスチャーは、「クロスモーダル一致効果(crossmodal congruency effect)」という現象の中でお互いに作用し、最終的に食品のおいしさの認知を決定します。この統合された感覚体験を表現するにあたり、「コク(Koku)」という概念を紹介しました。コクとは、複雑さ(complexity)、広がり(mouthfulness)、持続性(lingeringness)によって特徴づけられる総合的な感覚です。重要なのは、コクは味覚の一種でも特定の物質でもなく、さまざまな知覚が統合されることで生じる感覚だということです。
<うま味・コク味・コクの違い>
講演のハイライトは、この三つの概念を明確に区別することでした。
- うま味は五つの基本味の一つであり、主にグルタミン酸、特定のヌクレオチド、ペプチドによって生じます。生ハムでは、長期間の熟成によって遊離アミノ酸、特にグルタミン酸が蓄積し、穏やかなうま味を与えるとともに、全体の風味を高めます。
- コク味(コク味物質)は、γ-グルタミルペプチドなどの化合物であり、それ自体では味を感じない濃度で機能し、基本味と組み合わさることで、広がり(mouthfulness)や持続性(continuity)などを増強します。コク味物質はハムの発酵・熟成過程で自然に生成されます。
- 一方、コクとは総合的な感覚体験そのものです。複雑さ、広がり、持続性によって特徴づけられ、食品の味わいを豊かにする要素です。コクは、味、香り、食感、食べている間の時間的変化が相互作用することで生み出されます。
博士は、これら三つをはっきり区別して説明することで、なぜ熟成ハムがコクに満ちた魅力的な食品として知覚されるのかを、わかりやすく解説しました。『おいしさは単一の要因ではなく、複数の感覚要因の統合によって生まれる。うま味、コク味物質、コクを理解することで、おいしさに対する科学的な理解が深められる。それによって、おいしさを意図的に組み立て、提案し、またおいしさを評価することができる』 これが、博士からのキーメッセージです。
講演後の理解度アンケート(回答者46名)では、うま味、コク味物質、およびコクの概念について、全体として高い理解度と有用性評価が示されました。
コクの概念について理解できましたか
十分理解した:41.3%
おおむね理解した:52.2%
うま味、コク味物質、コクの違いについて理解できましたか
十分理解した:17.4% おおむね理解した:69.6%
合計87.0%が理解したと回答しました。
講演の内容は役に立つと感じましたか
84.8%が、講演内容が役に立つと評価しました。内訳は;
非常に役に立つ:43.5%
やや役に立つ:41.3%
参加者は、教育や商品開発、食品の品質評価などに応用できそうだと感じており、このテーマの高い実用性が示されました。
一方で、さらなる深い理解を得ることは今後の課題です。



<生ハムはコクを体現するモデル食品>
生ハムはコクがどのように形成されるかを示す理想的な食品例です。長期間の熟成過程で、さまざまな生化学反応が起こります。
・タンパク質分解(Proteolysis) -アミノ酸やペプチドが生成され、うま味や風味を増強します。
・脂質の分解と酸化(Lipolysis and oxidation)ー特徴的な香りを生み出す揮発性化合物が生成されます。
・テクスチャーの変化ー口中で脂肪分がとろけることで、口当たりがよくなると同時に風味が広がります。
これらの要素が時間とともに相互に作用し、何層にも重なる変化に富んだ感覚体験となり、ひと口ごとに、単なる風味だけでなく、余韻と満足感をもたらす非常に複雑な食品となるのです。
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<試食体験:熟成からうま味へ ― 生ハムの風味の強さと余韻を探る>
4月29日のプレゼンテーションの前日には、西村博士はアナ・サンガブリエル博士(現UIC理事)とともに、熟成期間の異なるハムの試食体験を開催、85名を超える参加者が集まりました。
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試食では2種類のサンプルが提供されました。
サンプルA:14か月熟成
サンプルB:18か月熟成
まず参加者は、生ハムをそのまま味わって評価を行いました。
風味の強さ
サンプルBが強い:68.2%
サンプルAが強い:31.8%
余韻の長さ
サンプルBが長い:83.5%
サンプルAが長い:16.5%
という結果となり、熟成期間の長いハムが風味の強さと余韻の両方で高く評価されました。
続いて、「風味が弱い」と感じたサンプルにうま味物質を各自に加えてもらいました。その結果、
風味が強くなった:89.4%
変化なし:10.6%
でした。
この試験から、熟成期間が長くなると風味が強く、余韻が長く感じられること、うま味物質を添加することで、初めに風味が弱いと評価されたサンプルでも風味が強くなることがわかりました。
UICは、本イベントの実現にご支援いただいた一般社団法人日本生ハム協会並びに同協会代表理事 渡邉直人氏、日本を代表する生ハムスライサー横川咲氏のお二人に深く感謝申し上げます。
